SS1-47、帝国の三勇者~リンカ対ドロシー~
カズトから許可を貰え、ドロシーと模擬戦をする事になったリンカ。
地下訓練所には、当本人らが来る前にギャラリーが既に集まっていた。
「えっ?何でこんなに」
「んっ、当たり前。元勇者パーティーの一人とSSランク兼拳の勇者が戦う。見たい者は大勢いるはず」
剣の勇者カズトと共にパーティーを組んでいたドロシーとSSランク冒険者兼拳の勇者であるリンカが戦うとなれば、ギャラリーが集まるのは必然といえよう。
「リンカが勇者だと聞いてません!」
「あれ?言ってなかったけ?」
「聞いてません」
リンカが勇者だと聞いていたなら戦っていない。だけど、これで何故SSランクなのだとドロシーは納得した。
なら、本気で殺らないと失礼に当たる。殺す積もりでちょうど良い。
「リンカは準備万端」
「はぁ~、私も準備出来ました」
リンカは、自分の相棒であり聖拳スターゲイザーを装着し、ドロシーは、爆裂杖を手に持っている。
『審判は、私ココアが務めさせて頂きます』
地下訓練所にココアの声が良く響く。歌の勇者であり地球でアイドル活動をしていたという事もあり、審判をかってでた。
ギャラリーの歓声が響く中で、これほど声を響かせられる者は中々いない。
『二人とも準備は良いですか?』
「んっ」
「はい、良いです」
『それでは始め!』
ココアの号令が響き渡り、リンカvsドロシーの模擬戦が始まった。
「炎よ、貫け【火の炎】」
数本の炎の矢が空中に浮かび、リンカに向かって発射された。速度は、そこそこあるが回避出来ない程ではない。
回避される事を見越して新たな魔法を詠唱し始めた。わざと回避するであろう道を残す事で的確に当てようとしている。
バンバン
「水の聖拳イザナミ【水鉄砲】」
聖拳スターゲイザーが青色の聖拳に変化し、右手を人差し指と親指以外握り締め銃の形を模倣した。
狙いを定めると、人差し指の先から水が勢い良く吹き出し炎の矢を打ち緒としていく。
「【召喚:火蜥蜴】」
炎属性の召喚魔法の中で中位にあたる火蜥蜴。高温の炎を吐き出し、何物も溶かしてしまうと言わており討伐ランクは低くてもAランクとされる。
「可愛いトカゲ」
「甘く見てますと、ケガだけではすみませんよ。行きなさい、火蜥蜴」
『ギャォォォォォ』
火を吐き出して来た。だが、そこまで動きは早くなく避けるのは容易い。
だけど、その皮膚は高温に耐えるため鋼よりも硬く剣を通さない。だから、普通はハンマーとかの打撃武器で対応するのが鉄則。
「はぁぁぁぁぁぁ砕けろぉぉぉぉぉ【水圧掌底】」
火蜥蜴の吐く炎を避けながらリンカ
は掌に水が纏まり付かせ、それを思いっきり渾身の力で火蜥蜴の横腹辺りに叩き込んだ。
一見、相撲の張り手のように見えるが、鋼より硬い火蜥蜴の皮膚にヒビが入り木っ端微塵に弾け飛んだ。
「うぃ、もう終わり?」
一撃で火蜥蜴を倒した事に何をしたのか分からず茫然自失となってるドロシーと唖然と口を開けたまま固まってるギャラリーの面々。
「はっ!カズトの妹ですので、手加減していました。許してください」
「んっ、許す」
脅す積もりで火蜥蜴を仕掛けたが、軽く殺られてしまうとは思いもしなかった。
だが、次はそうはいかない。火蜥蜴とは比較にならないものを召喚する積もりだ。
そのためには距離を取り詠唱をする時間を稼ぐ必要がある。
「では、いきます」
「来い」
リンカが人差し指をクイクイと挑発する。よっぽど格下に見られてる。カズトも見ている手前、恥ずかしい真似は出来ない。
「炎優級魔法【爆裂】」
ドロシーの得意魔法の一つ。杖の効果も相まってランクが強にパワーアップされている。
直接当たらなくても爆風に晒されるだけで火傷を被うのは必須。それに吹き飛ばされ壁に激突すれば、気絶してドロシーの勝利だ。
本命だと用意していた魔法は無駄になるけれど、これで立っていられるはずがない。
「……………勝った」
「リンカ、立ってるよ?」
煙が晴れると、無傷のリンカが立っていた。用意している魔法が霧散しないよう維持するだけで、精一杯な程に動揺している。




