154食目、龍姫にプレゼント
カズトは油断していた。カズトの口元を紙ナプキンでキューティーが拭いた事に対して、してやったりとニヤニヤと微笑む顔をまともに見れない。
ただ、救いなのが他の人に見られていない事だ。そこで俺は、そっと席を立ち上がる。
「キューティー女王陛下、私は仕事があるので失礼致します」
「えっ?ちょっと待って!」
キューティーの制止を聞かずに立ち去る。あのまま居続ける事は、カズトには荷が重すぎた。
カズトは、キューティーの気持ちは知ってるつもりだが、その気持ちには答えられない。
だけど、あのまま席に着いたままだったならキューティーの気持ちに答えてしまっていたかもしれない。
だが、もしも答えていたとしたら世界のパワーバランスを崩す結果となる。
カズトが辛うじて人間の国であるグフィーラ王国に在籍しているからこそ他の国と戦争をしないで済んでいる。
それは他の国も同じ。カズトが龍の渓国ドライアーに所属すれば、勇者が二人となりパワーバランスが崩れてしまう。
そして、人間の国グフィーラ王国と何処かの国が戦争となると危惧される。
「振られてしまいましたな」
「う、うっさいわね。不敬にするわよ」
カレーを口元に付着してるカズトが可愛くて、つい紙ナプキンで拭いてしまった。
何であんな行動に出てしまったのか?拭いた本人であるキューティー自身にも良く分からない。
カズトが去ってから、ブラディーが急に口を出して瞬間に自分が何をしたのか思い出し、顔全体が赤く茹で上がった。
会う度にアプローチをしてくるが、その時は全羞恥心は感じない。
なのに、どうして今は恥ずかしく感じるのか自分でも分からない。今後、カズトの顔をまともに表面から見れるのか自信がない。
「龍姫様のそんな火照ってるお顔を拝見するのは初めてかもしれぬのぉ。おそらく恋から愛に変わったのじゃろうな」
これが愛?そう思うだけで羞恥心から鼓動がドキドキと五月蝿く耳に響いて来る。
龍人族は、耳が良いとされる獣人である犬人族よりも聴覚に優れてるため自分の心臓の音なんか意識すると丸聞こえだ。
「龍姫様、まるで獲物を狙う瞳そのものに━━━━女の顔になっておりますぞ」
龍人族は、何時だって本能的に強き者を求める。
それ故に、最初カズトと出会い誤解から殺り合い、カズトの強さを知り、その強さに牽かれた。
だが、今は強さよりもカズト本人に牽かれつつあった。それが龍人族の女王として良い事なのか?
それは分からないが、一人の女としてカズトを欲しいと心の奥底から求めつつあった。
「フォッフォッフォ、カズト殿からこれをお預かりになっております」
ブラディーが手元から出したのは、カズトの世界で言うところの御守りだ。
だが、キューティーの瞳には別の形に写っていた。この御守りに内包されてる魔力が、とんでもない魔力量であり、複雑な魔法陣が組み込まれているのが一目見て取れる。
「これは発動しながらドアを開けますと、レストラン〝カズト〟のドアへと繋がるそうですな。一種の転移装置といったところですな」
「いつ、何処でカズト様に渡されたのだ!」
ここには他の者の目があるのでブラディーの首筋を掴んでないが、もしも二人きりなら食って掛かっていた。
こんな大事な物を今まで隠したブラディーに怒りがフツフツと沸いている。
「さ、先程カズト殿が立ち去り際に渡されたのです。直接、龍姫様に手渡しされるのが恥ずかしかったのでしょうな。龍姫様にプレゼントと言っておりました」
「それを先に言いなさい」
ブラディーから御守り型の魔道具を受け取ったキューティーは、「えっへへへ」と背後に般若が出現したと錯覚したと束の間、キューティーの口角が上がり満面な笑顔となっている。
そんなキューティーの表情を見て、ブラディーはホッと息を吐く。キューティーの側近であるからして、良くキューティーの怖さが理解出来る。
「カズト様にも可愛いところありますのね」
御守り型の魔道具に口付けや頬ずりをするキューティーからハートが大量に放出してる風にブラディーの瞳には見える。
キューティーのご機嫌が回復したようで、後日カズトに何かしらお詫びを持って行こうと心の奥底で決めていた。
カズトは、勇者である上に料理人な訳だから何か珍しい食材が良いだろう。世界会議メープルが終了次第、国に戻り早速届けようと考えていた。
国としては離れているが、御守り型型の魔道具がある。ほぼ距離はないに等しい。
実は、カズトから渡された御守り型の魔道具はキューティーに渡した物だけではなかった。ブラディーを含め、色龍の長達全員分を渡されていのだ。
この事は、キューティーに内緒にしている。自分一人だけじゃないと知られたら、またご機嫌斜めになるのを目に見えてるからだ。




