151食目、カレーパーティー開催宣言
次から次へ入室する中で一際威厳を放ってる者がいる。鬼人族の王、シドニス王その人である。
俺を見つけると甲高い声を上げ、こちらに近寄って来るないなや、バシバシと背中を叩き笑う。
「おぉ、今宵はカズト殿の飯が食えると楽しみでしょうがなかったぞ」
「それはそれは光栄でございます」
「カズト正直に言っても宜しいですよ。思いっきり背中を叩かれ痛いと」
シドニス王の側にいつの間にかシドニス王の嫡男であるガリュウがいた。「すまない」と頭を下げ謝罪をした。
痛いと言えば痛かったが勇者によるステータス補正によって幾らかダメージを緩和出来てるから其れほど痛くはなかった。
それよりも勇者の防御を突破するシドニス王の腕力がスゴいといえる。
「何を言うか。これはカズト殿の友情の証でやってるだけだ」
えっ?!そうだったのか!
カズトは顔に出さなかったが、内心では心底驚いた。実の娘であるアリスを店で預かってる身であるから娘を心配する親心からくるものだと思っていた。
「けして、アリスに会えない日々のストレスから叩いたもんじゃないぞ」
やはり親バカであった。
「そなたは親バカたのぉ。シドニス王よ」
あっ、セークス女王が俺の代わりに思っていた事を代弁してくれた。
流石に俺が口に出していたら不敬罪として何らかの罰を受けていたかもしれない。
「何を言うか。お主も実の娘が可愛いと思わぬのか?」
「何を言ってるの?可愛いに決まってるじゃないのよ。ただ、そなたみたいに慌てないわよ」
「………………」
怖くて二人の間に入っていけない。口が裂けても言えないが、王族を相手するよりも魔物や盗賊を相手してる方が幾分か楽だ。
「父上、その辺で」
「お母様、皆様がこちらを見ていらっしゃいますよ」
各々の子供が間に入り殴り合いのケンカにならなくて済んだ。もしもケンカが始まったが最後、種族なだけあってこの会場が持たないだろう。
「お二人は、もしかして昔からの知り合いなのですか?」
城の門まで出迎えた時から感じていた。シドニス王とセークス女王は、昔から知り合いなのではと。
「あぁ、父上とセークス女王は昔一緒のパーティーにいたらしい」
「パーティー?冒険者ですか?」
「そうだ。二人ともSランクまで登り詰めたと聞いている。ただし、今でも通用するかは別問題だ。なにせ、今から50年以上前の話だからな。オレも産まれておらん」
「カズト様、その話アタシも聞いた事がありますわ。国中で伝説の話として受け継げられてまして、お母様に憧れて騎士団へ入隊希望の若き女性達が後が立ちませんわ」
あの二人ならその当時の英雄として崇められる光景が容易に想像出来る。
相当無双していたに違いない。おそらく、冒険者ギルドに二人のクエスト達成等の記録が残っていたなら後日拝見したいものだ。
「どうしますか?先にお席へ案内しても」
シドニス王とセークス女王はケンカになってはいないが、今だに話し込んでいる。
親同士が話し込んでご子息とご息女が仁王立ちのままだと不憫に見えてしまう。
「ガリュウ、折角ですので一緒の席にしませんこと?」
「それは良いな。そうすれば、父上も積もりに積もった話も出来るであろうな」
まぁケンカにならなければ良いが、それだけが不安要素として残る。
各々の子供に手を引っ張られ大人しく二人の王は着いて来る。これでは、どっちが親なのか分からなくなる。
俺以外だと、これで全員が席に着いた。俺は全員拝見出来る中央でカレーの演説を始めた。
「えぇ、皆様昨日から当料理を担当しておりますカズトでございます。今夜は、魔法大国マーリンならではの料理の一つとしてカレーを数種ご用意致しました。種族にとって食べれない食材がありましょう。
ですが、カレーという料理は様々な食材と合わせる事が出来る料理で御座います。全員一致でご堪能出来ると確信を持てます。長々とお話しましたが、これからお運び致しますので舌鼓を鳴らしてくれましたら幸いです」
カズトは貴族じゃないが、貴族らしく左足を一歩下げ右腕を胸辺りに添えお辞儀をした。
パチパチと拍手が舞うが、やはり日本育ちだからか?貴族のマナーは違和感ありまくりで一向に慣れない。
カレーは森精族に関しては肉が食べれないという事でベジタブルカレーにしてる。
他の王族らは、その都度ご要望を聞きながら辛さや食材を随時調節していく。
食べ方に関してもお米とナンに別れるであろうから、その度にレクチャーをするのも料理人の仕事だ。
食べ方が違う事で美味しさが半減する料理も中にはある。
例えば、匂いが強烈に臭い食べ物なんかがそうだろう。食べ方を間違えれば、アンモニア濃度が濃すぎて口の粘膜が爛れてしまう食材が中にはある。




