SS6-5、赤薔薇隊隊長ライラのスローライフ~アンミツ~
勝負が着いた後は仲良く甘味を食べるのだとアリスが言うものだから再び食堂へ舞い戻った。
王様や護衛として着いて来た青龍隊の者達は見受けられない。一先ずは一安心だ。甘味の楽しむ姿をお見せられない。
「どれどれ、何れにするかのぉ?」
「甘味に疎いもので、アリスにお任せしますわ」
「姫様の同じもので」
「そうかのぉ、決まったのじゃ」
バンッとメニューを閉じアリスは手を上げ店員を呼んだ。来たのは、可愛らしい犬人族の女の子であった。
トコトコと尻尾を振りながら歩く様は、可愛い物好きなら抱き締めたくなる程に愛らしい。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「おっ、この度はルーシーか」
「あ、アリス様くすぐったいです」
この犬人族はルーシーという名前なのか。それにしても何とも可愛いのだ。アリスに撫でられて蕩けて切ってる表情が堪らない。
「ライラも撫でて見るか?」
「ご、ご迷惑でなければ」
ルーシーの頭に手を伸ばし、フサフサの頭を撫でる。これはヤバい、とてつもなく癒される。何時までも撫でていられる。
「ら、ライラ様くすぐったいです」
「また撫でても構わないかしら」
「ボクは構わないですけど、ご注文して貰えれば」
女の子なのにボク?その一言だけでドッキューンとライラのハートを射ぬいた。
「ハァハァ、分かったわ」
「ら、ライラ。お主の目が怖いのじゃ」
「失礼致しました。つい、興奮し過ぎてしまいました」
アリスを怖がらせてしまった。つい、可愛い物好きの衝動に駆られてしまった。
下手すれば、不敬として罰されてしまう。ドキドキとアリスの様子を伺う。
「ルーシーは可愛いからの。そういう気持ちは分からんでもない」
「あ、アリス」
「だが、限度がある。この度の処罰として、妾の相談に乗ってくれぬか?」
「あっ、はい喜んで」
何の相談かは分からないが、普通に罰せられれば首切りとかあり得た。 それが失くなって内心安堵している。
「それでルーシー、これにするのじゃ。これを3つを頼む」
「〝アンミツ〟ですね。畏まりました」
ご注文を承ったルーシーは、トコトコと可愛らしく厨房へと小走りで駆けて行く。
ライラの内心でルーシーに手が寂しそうに伸びて行きそうなるが、気合いで黙らせた。本当にやっていたらマズかった。
「お待たせ致しました。〝アンミツ〟でございます」
温かい料理とは違い、ものの数分で出て来た。器は、ヒンヤリと冷たく熱いとは違う驚きに触れた指先を遠退いてしまう。
器の中身は、半透明なサイコロに煮て冷ましたのであろう黒い豆が掛かっている。
そこに黄色と赤い果実が乗っている。味は想像出来ないが、アリスが頼んだ物だ。ハズレじゃないだろう。
先ずは、この半透明なサイコロから頂く。スプーンですくい口に運ぶ。
適度な固さと柔らかさを両立するような食感が楽しい。冷たくて、味はそんなにしない。
次は黒い煮豆と一緒に食べてみよう。半透明なサイコロと黒い煮豆と一緒に食べると、やはり正解であった。
口の中に広がる仄かな甘味と食感が踊る。黒い豆は苦いと勇気をいるが、一回口に放り込めば甘味で頬が落ちるような美味しさだ。
「こちらはどうだ?」
見た事のない果物。黄色い方を先にパクっと口に入れた。ツブツブな食感に甘味と酸味の果汁が混じり合い、これだけでも十二分に美味しい。
赤い方はどうか、二つの実が房状に寄り添うように付いており、まるで恋人のようだ。
手掴みでパクっとかぶり付くと果物独特の甘さと花の香りが鼻に抜けるような爽快感がある。
「どうだ、旨かろう」
「あぁ、アリスのチョイスは流石だ。私も〝アンミツ〟を気に入ったわ」
「当然です。姫様は、レストラン〝カズト〟にある甘味を制覇しようとしてるのですから」
「おい!余計な事を言うな」
よっぽど恥ずかしいのかアリスの頬が茹で蛸のように真っ赤かだ。
その様子にクスッと、つい笑ってしまう。ライラが笑った事に気付いたアリスは、一瞬ムスッと不機嫌になるが直ぐに笑みを溢した。
「まぁ良い。いずれ鬼国シェールに帰った時に味を覚えて置きたいだけじゃ。城でも再現出来るようにのぉ」
「姫様、その時はお手伝い致します」
「頼んだぞ」
今は楽しく接しているが、いずれ帰ってしまう寂しさをライラは覚える。
「帰った時には、お主も招待してやるからな」
「えっ?良いのか?」
「良いも悪いも鬼国シェールと同盟同士なのじゃぞ。招待して何も都合が悪い事もないわい」
笑ってそう言い放った。
多分前の自分だったなら鬼国シェールの招待を断っていたかもしれない。だけど、今は悪い気はしない。むしろ嬉しい気持ちで溢れている。




