148食目、鎖に捕まった
ダナンさんが扉の前へ陣取り廊下へ出る事が出来ない。相手が悪意を持った敵なら無理矢理押し通す事もアリだが、ダナンさんは貴賓の一人として魔法大国マーリンへと来ている。
傷着ける行為は絶対にNGだ。もしもしたなら国家問題に発展しかねない。
「………………わ、分かりました」
「カズト兄様」
「カズト殿、ありがとうございます」
「流石、我が息子よのぉ」
えっ?今、ルルシー女王陛下は何と言った?俺の事を息子って言ったのか?
「えっ?息子?」
「我が娘リリシーがソナタを兄と認めたのよ。カズト様―――――いや、カズトは妾にとって息子と同義よ」
「えっ!いやいや、何でそうなるのですか?!」
意味が分からない。種族としての価値観の違いか。それにしても、いきなり息子と言われ困惑する。
幼い女の子が、年上の男を親しみを込めて兄と呼ぶのなら、まだ分かる。
だけど、血が繋がってない赤の他人に息子と呼ぶというのは、どう考えてもおかしい。
「カズト殿、我々樹精族は、子供が他種族を兄弟姉妹と認めるなら、その親も息子・娘と認識する風習があるのです。人間に例えるなら義理ですかな?」
「あっ、まぁそれなら納得と言いますか、よろしいですよ」
「おぉ、誠か!これで、カズトも我々家族の一員なのね。それにしても、人間とは面倒くさい種族なのね」
「まぁ、血の繋がりを大事にしてると言いますか。同じ人間でありますが、私もそう思う次第です」
貴族や王族が最たる例だろう。側室に産ませた子供は、先ずどんなに優秀でも跡取りにはなれない。
カズトの故郷・日本でも血が繋がってない子供を毛嫌いする家庭もあるにはある。それでも、貴族や王族に比べたら微々たるモノだろう。
「そうかそうか、カズトもそう思うのね。じゃぁ、サンドラの説得をお願い出来るかしら?」
「あたしからもお願いです。サンドラをあたしのお姉さまにしたいのです。どうか、お願いします」
おそらく、サンドラも勘違いしてるに違いない。いきなり、私の娘になってと言われても困惑する。それが女王様自らなのだから尚更だ。
「カズトさん、お疲れ様です」
「サンドラさん、逃げましたね。俺を生け贄として差し出しましたね」
俺が問い掛けると、サンドラの額から冷や汗がタラタラと溢れ出ている。
それに、視線を俺に合わせず外そうとしてる当たり分かってて部屋の中へ通したのだと分かってしまう。
「す、すみませんでした。言い訳がましいですが、女王陛下とリリシー妃殿下の家族になれと申されましても困りますし」
「何かサンドラさんは勘違いをしている」
「勘違いですか?」
種族によって衣食住は違うのは当たり前。それだけではなく、その他にも種族によって価値観や考え方が違うのは、凄く当たり前の事だ。
「良いか?サンドラさんは、転生した元人間だ。衣食住は、どうにか馴れて来ると思うが、人間の時の価値観や考え方までは中々消えるもんじゃない」
「…………………」
真面目に俺の話を聞いて何やら頭の中を巡らせてるのか少し下を向くサンドラ。
「女王様とリリシーは、サンドラさんともっと仲良くなりたいと思ってるだけなんだ。それが樹精族の風習として表れてるに過ぎないと俺は思ってる。サンドラさんは、女王陛下とリリシーの事は嫌いなのかな?」
「……………嫌いと………………言えるはずないです。大好きです。むしろ、命の恩人なのですから」
グスンとサンドラの目頭から涙が溢れ頬に伝い落ちる。その涙が何を意味するかはカズトは知らない。
「女王陛下とリリシー妃殿下の家族になります。むしろ、私からお願いしたいくらい」
俺を残して部屋にサンドラが入っていく。扉が閉じた途端、中から嬉しそうな笑い声とはしゃぎ声が廊下まで聞こえてくる。
どうやら上手くいったようで一安心だ。ここは静かに立ち去るべきだと考え、歩を進めた直後にカズトの体に異変を感じた。
何やら体中に巻き付いて動きを制限してる。多少動けるが、これを千切れるまでにはいかない。
「カズトさん、何処に逝かれるのですか?」
何かニュアンスが違う?!
さっきまで穏やかに女王陛下とリリシーの部屋へ入って行ったはずなのに、扉の隙間からこちらを覗き込んでる人影がいる。
「これは、まさか!聖鎖を使ったのか!」
半透明だが、ジャラジャラと金属が擦れ合うような音がする。良く目を凝らして見ると鎖の形が見えてくる。
いつの間にカズトの体に巻き付けたのか?全然気が付かなかった。
「あら?見えました?そうです、自慢の聖鎖テンペストです。それで、何処に行こうとしたのですか?折角なのですから、カズトさんも一緒に楽しみましょう」
「いや、俺は………………」
「楽しみましょうね」
「えーと、はい」
サンドラの威圧感に負けたカズトは、大人しくルルシー女王とリリシーの部屋へ戻ったのであった。




