147食目、プリン再び
「これが卵から作りました〝プリン〟という甘いお菓子でございます」
カズトはアイテムボックスから容器に入ったままのプリンとスプーンを人数分用意した。
「カズトお兄さま、これが卵を使ったお菓子ですの?」
「えぇ、そうでございます。毒味役をだ━━━━」
毒味役を誰かに頼もうとした瞬間にパクっとリリシー姫殿下が早くもスプーンですくい食べてしまった。
もちろん、カズトは毒を入れる真似はしていないのだが、毒味役を介しなくて大丈夫なのか?
魔法大国マーリンへ入国してから毒味役を一回も介してないのだから、カズトから何も言う事は出来ない。
「リリシー様、そんないきなり食べては」
「カズトお兄さまが作られたのですかは、リリシーは平気です」
何処からそんなに信頼が出来るのか?カズト自身は嬉しい気持ちだけど、将来騙されないか心配になる。
だけど、満面な笑みでプリンを食べるリリシーを見ると、こちらまで幸せな気分になってくる。
「皆さんもどうか、お召し上がりください」
リリシーが先手を打って食べた中で食べない選択肢は無くなった。
「リリシーが微笑む理由も解るわね。これはなんという甘さで口の中でとろけるわ」
「えぇ、甘味が苦手なワタクシにも美味しく頂けます」
ダナンさんは、甘味が苦手なのか。でも、食べられたようで良かった。
ルルシー女王陛下は、実の娘であるリリシーよりもプリンを相当気に入ったようでペロリと平らげてしまった。
「サンドラさんもどうですか?」
「えっ?良いの?」
だって、そんな「ワタシも食べたい」という瞳で見詰められてはあげないという選択肢はない。
「悪いわね。まさか、この世界でもプリンを食べれるとは思わなくて…………………嬉しくて」
プリンを食べた瞬間、サンドラの目頭から一粒の涙が頬を伝い落ちる。
「あら?ヤダ、悲しくないのに涙が………………なぜなの?」
カズトにも覚えがある。
故郷とは全く違う世界に来てから最も困る事は何なのか?それは食事だ。
住む場所や服装ならどうにでもなる。風呂が入れなくても川や泉で洗い流せば良い。冒険者になれば、野宿など平気になってくる。
服装も似たようなモノで、日本で着ていた洋服では目立ってしまうため、自然と異世界の服装に慣れてくる。
だけど、食だけは我慢の限界がいずれくる。とてつもなく故郷の食事を無性に食べたくなるのだ。
だから、サンドラが涙を流した気持ちが良く解る。今なら難なく手に入るが、無性に米が食べたくなる時があった。
「地球を━━━故郷の事を思い出しましたか?」
「違う。これは涙ではない。そう、これは汗なのです」
いやいや、自分から涙って言っていたではないか。別に恥ずかしい事ではない。
「我慢していた分、泣いても良いと思いますよ。ここには笑う者なんていませんよ」
そうカズトが指摘すると、サンドラは自分の回りを見渡し全員微笑んでる事を確認し終わると、又もや涙が頬を伝い落ちる。
「今まで辛かったわね」
「る、ルルシー女王陛下!」
サンドラを優しく抱き締めるルルシー女王陛下。その光景は、まさに聖母マリアが娘を抱き締めてるようだ。
まぁ聖母マリアと言っても俺とサンドラしか伝わらないけど、カズトにはそう見えてしまったのだ。
「泣いても良いのよ。もし、よろしかったらお母様と呼んで良いのよ」
「いえ、それは遠慮しておきます」
「あら、残念ね」
「サンドラが、お姉さまになるところでしたのに」
「リリシー様!そ、それは恐れ多いです」
首と両手を振り、「護衛へ戻ります」と言い慌てて廊下へ出て行ってしまった。
「うふふふふ、カズト様サンドラ可愛いでしょ?娘にしたいのだけれど、毎度毎度断れられてるのよ。リリシーもサンドラがお姉ちゃんになったら嬉しいわよね」
「はい、サンドラがお姉さまと呼べる日がくればと思っています」
先程の一回だけではなかったのか!それはそれはサンドラも大変そうだ。顔には出さないが、カズトは苦笑いをするしかなかった。
「あっ、そうだのです。カズトお兄さまに説得して貰うのはどうでしょう?」
「あらっ、それは良いわね」
クルンとこちらに標的を絞るルルシー女王とリリシー。逃げようとするが、扉の前にはダナンが直立不動で立っていた。
「カズト様、申し訳ありません。我が主の命令でして、ここを通す訳にはいきません」
「ダナン、良くやったわ」
「ダナン、グッジョブなのよ」
そんな!ダナンさんは、俺の見方だと思っていたのに!




