146食目、ナン
ご飯が炊き上がってから数分後にナンも焼き上がった。白い生地に所々きつね色の焼き跡がつき、初めて作ってみたものの上手く出来たようだ。
味見用に小さく作ったナンをボーロ達にバレないようカレーを小皿にすくい、それにつけてパクりと食べた。
うん、普通にお店に出せるレベル位には美味しい。だけど、もっと改良の余地がありそうだ。
「そ、それは何ですかな?」
またもや聞いてきた。同じ料理人だから興味津々になるのは理解出来るけども、食わせないよ?
「……………教えないとダメ?」
「「「……………コクコク」」」
何か増えてる!白米の時は、ボーロだけだったのに部下が二人増えてる。
自分が食べたカレーを作り終わったのかと拝見したら、ほぼ終わっていた。後は煮込むだけみたいだ。
「これはナンだ」
「これは何だ?」
「だから、これはナンだ」
「これはなんだ?」
あぁもう言葉ってややこしい。
「これは〝ナン〟という食べ物です」
ポン
ボーロとその部下達が一斉に『あぁ~』と叩いた。俺も知っていたから良いものの、初見だとボーロ達みたいになるかもしれない。
「これもカレーに浸して食べます。こう千切ってカレーにつけ……………食べます」
ナンの食べ方を披露した結果、ボーロを含め部下全員がヨダレを垂らす勢いでノドをゴクンと鳴らし続けてる。
キラキラと瞳を輝かせ俺を見詰めてるが、俺は鬼になる。けして、味見という名の摘まみ食いはさせないと誓ってる。
もし、こいつらに味見をさせたらカレーの二の舞になる事は目に見えて明らかだ。
「そんなに見詰めても食べさせませんよ」
「ねぇ、そんな事を言わずに一口だけでも」
「そうだぞ、自分だけ食べてズルいぞ」
「固い事を言わずにさぁ。一口だけでも」
「ダメです。私が食べたのは実演をしたまで。これ以上、無駄な時間を割く事は許されません」
味見をしたいと懇願するボーロ達を突っぱねた。本当に時間がないのだ。
本当ならもっと時間を掛けて煮込みたいところだが、そんな事も言ってられない。
良く言うだろう?カレーは、一日目よりも二日目の方が美味しいって。
「そんなに食べたいなら、会議が終わった後にでも作ってやるから」
「「「「ヤッホー」」」」
それまでにコイツらが覚えていられるかって話だ。会議期間中にカレー以外にも色々と作る積もりだし、他の料理へ夢中になる事で忘れるかもしれない。
「ふぅ、後は焦げないよう見張ってろよ」
時間になるまで可能な限り煮込み続ける。やはり、味が染み込んだカレーを食べて欲しい。
普通は王族が口にする料理は作り置きはしない事が原則よりは暗黙の了解だ。
だが、カレーやラーメンのスープ等々平気で何時間、何日と煮込む事はざらにある。
だから、もしもカレーが残る事があれば、何かの料理に利用・応用するつもりだ。そうした方が、もっと美味しいモノが出来るはずだ。
「俺は、ちょっと外すからな。絶対に食うなよ」
「それはフリですかな?」
「フリじゃねぇよ。後で食わすんだから、今は食うなよ。もしも、食った者が現れたら連帯責任として、全員死ぬよりも恐ろしい罰を与える事を約束する」
「そんな約束しないで良いですから!」
「行ってくるから、絶対に食うなよ」
念には念をいれて、何回か言ったから大丈夫だと信じたい。もしも、食ったなら俺だけではなく、ここの主人直々に処罰を受ける可能性がある。
「さてと、確かこっちだったよな?」
似たような造りの廊下で迷いそうになる。コツコツと歩き記憶を頼りながらたどり着いた場所は。
「サンドラさん、お疲れ様です」
「カズトさん、お待ちしておりました。リリシー妃殿下は中へお待ちです」
サンドラが扉を開くと、部屋の中にいたのは樹精族の王族である第一王女リリシー・マトン、ルルシー女王陛下はソファーで寛ぎ、樹界マトリョーシカ近衛隊長ダナンは後ろで待機してる様子だ。
「カズトお兄さま、お待ちしておりました」
「うふふふふ、こう見ると本当の兄妹みたいね」
兄妹なら大丈夫か。これで恋人や夫婦と言われた暁には少しの間、立ち直れそうにもない。絶対ロリコンとからかわれるに違いないからだ。
「それはそうと、こちらをお召し上がりになりますか?卵のデザート━━━━甘いお菓子でございます」
「卵って、あの卵ですか?」
「想像してる通りの卵だと思いますよ」
動物によって産まれる大きさや味は千差万別だけど、この世界でも基本的な卵は鶏だ。
「卵が甘いお菓子になるなんて想像出来ないわね」




