145食目、カレーには抗えない
ボーロは福神漬けを食べていたら、ふと思ったのか?カレーを要求してきた。
やはり料理人という事だろう。初見で食べたモノでも、何に合うのか理解出来たらしい。
「私も」
「俺も」
「どけ、儂が先だ」
「あたいが先よ」
ボーロの部下達もがカレーを要求し始め、カレーと福神漬けを向後に食べ始めた。まるで無限ループに突入したように俺以外無我夢中で食べている。
寸胴鍋一台で30人分程量があったと思うのだが、ものの数分で寸胴鍋が一台分空になった。これが香辛料の魔力なのか?
昔、地球で香辛料の一つである胡椒が金塊と同等の価値であったというのも納得の威力だ。
だけど、俺は怒ってる。
「おい、お前ら本当にやりやがったな?」
「"剣の勇者"殿?」
美味しいなのは俺が作ったのだから理解出来るけども、流石に食い過ぎだろ。味見や毒味程度なら許されるが、これは流石に。
それは、お前らが食うものじゃなく、他国から来賓した王族の者が食うものだぞ。
そんな物を王族より先に食ったら本来、不敬になりかねない。食べるなら余り物か毒味として提供された物に限る。
「はっ!すみませんでした」
ボーロは、とんでもない事をしてしまったと気付いたらしい。いつもならこんなミスをやらないが、今回は香辛料の魔力にやられたらしい。
それに福神漬けも後押しになってしまったようだ。とすると、勧めた俺にも責任の一旦があるのか?
「はぁ~、あんなにあったのに空ではないか」
「でも、こんなに鍋あるのですし━━━━」
「あ"(怒)」
普段大人しいカズトも料理に関しては怒る。カズトが発した殺気にボーロの部下は、最後まで台詞が言えずに黙る。
「はぁ~、しょうがないな。ここに袋で分けた香辛料とレシピを書いたメモがある。メモを見ながら自分達で作れ。俺と同じ料理人なら、そんな位出来るだろ?」
昨日の豆腐作りと豆腐料理を教えた傍ら、徐々に手際よく作れるようになっていた。
その事をふまえると、レシピのメモと材料でさえ揃えれば作れるはずだ。
事細かにg数を記載してあるし、それにカレーは、よっぽどの事がない限り失敗はしないだろう。
「り、了解致しました。さぁ、お前ら作り直すぞ」
「「「「アイアイサー」」」」
まるで軍人のように敬礼をすると、俺のカレーを再現するように作り始めた。
一連の動作に無駄がなく、俺が俺を見てるようで完璧に俺の動作と被る。
これが何時でも出来れば、おそらく自分の店を出せる程の練度になるが、そう簡単な話ではない。
ボーロとその部下達が、今の練度で出来てるのは俺の存在があるからだ。
多分、俺が帰国してしまったら6割くらい今身についてる実力から後退してしまう。そんな危惧がある。
俺という刺激が無くなれば、いずれ飽和されてしまう。そういう気持ちが、俺の心奥深くに引っ掛かってる。
「おっ、ご飯も炊き上がったか」
だけど、今はそんな事はどうでも良い。残酷のようだが、俺自身の問題ではなく、彼ら自身の問題なのだ。俺が帰っても頑張って欲しいと思う。
それよりも炊き上がったご飯を見詰めると日本人であるカズトは、自然と笑みが零れる。
やはり日本人といや、お米だ。やはり日本人で産まれて来たからには、お米がどうしても食べたくなる。
これはもはや、日本人の本能といえよう。自分の店でも定食系や丼物に使用してる。
「う~ん、何とも良い匂いだ」
炊き昇る湯気に艶々としご飯粒、一つ一つ米粒が立ち、まるで星空を見てるようだ。
本当は、もっと時間を掛けて米粒の大きさを揃えるべきだ。それと炊く際に使う燃料が違う。
薪ではなく、藁で炊くのが好ましい。目の前のご飯よりもふっくらと炊き上がる。
だが、それをやると高級料理屋になってしまう。今の店では採算が合わない。それ以前に藁を、この世界で見た事がない。
【異世界通販】でも探してみたは良いもののペット用で品質が良くなかった。
まぁもしも藁が見つかってもやる積もりは更々ない。今の店が気に入ってるし、みんなに俺の料理を食べて欲しいからだ。
「"剣の勇者"殿、それは何ですかな?」
懲りてないのか?また、ボーロは聞いてきた。食べたいと言わなくてもボーロの瞳が、そう呟いている。
「これは、お米という穀物を炊いたモノで〝ご飯〟という。俺ら勇者達の故郷の主食ですよ」
「ほぉ、これが。遥か東の国にあると聞いた事があります。これは食べてみたいものですな。チラッチラッ」
「今はダメです。今、起こした惨状をもうお忘れですか」
ボーロの部下達がせっせと俺のカレーを再現しようと動き続けてる。それを見ると、もはやボーロは何も言えず、トボトボと部下達を手伝うのであった。




