143食目、じゃがバター
カズトによるジャガイモの下処理のレクチャーを拝見したボーロとその部下達は、不安がりながらもジャガイモを手に取り次々と下処理を終わらせる。
その不安を取り除くべく、数個のジャガイモを蒸かした。そこにバターを一切れ落とし、簡単で誰もが好きな〝じゃがバター〟の出来上がりだ。
安くて旨い。カズトを含め勇者達の故郷である日本で開催される祭りによるが、じゃがバターの出店は定番だ。シンプルで家でも簡単に作れそうだが、つい買ってしまう。
「ほれ、そんなに不安な顔で調理されたら、せっかく旨い料理も不味くなってしまう。これを食べて不安を解消してくれ」
「これは?ジャガイモの上に何か乗ってる?」
蒸かしたジャガイモの熱でバターが溶け、ジャガイモを黄金色と輝かせている。ホクホクの湯気にバターの香りが上乗せされ、シンプルだが食欲を祖剃る逸品へと昇華させている。
これを見ているボーロとその部下達は、ヨダレが出そうになるのを我慢しては、じゃがバターから目が離れないでいる。
「何をしている?食べても良いぞ。覚めたら不味くなるからな」
覚めたらバターの乳脂肪が固まって不味くなる。こいうのは出来立てが一番だ。ホクホクで熱い内に食べた方が良い。
「では、頂きます。お前らも食べろ」
ボーロ達が、じゃがバターを食べるとジャガイモのホクホクした食感とバターの香りと濃厚な乳の味が口と鼻から脳へダイレクトに伝わる。
自然と口角が上がり笑みが零れる。今まで毒があると敬遠されがちだったジャガイモが、こんなに美味しいとは思いもしなかったのだろう。我を忘れて夢中になっている。
「今まで何をしておったのだ。こんなに旨い食材が近くにありながら、手を出そうとしなかったとは。料理人失格よの」
「ボーロ、料理人とは未知の食材でも果敢に勇気を持って挑まないといけない。失敗は何度もあるかもしれないが、試行錯誤の先に真の美味な料理は作れはしないのだ」
「はっ!"料理の勇者"殿の言う通りでございます」
生意気にも弁明を垂れるが、俺もまだまだヒヨっ子だ。一生掛けても料理の真髄に届きやしない。
カズトもまた先人達が築き上げた料理技術を使ってるに過ぎない。いずれ、誰も作った事のない美味な料理を作るのが目標だ。だけど、何時になるやら。
「さぁ、ジャガイモの試食は終わりだ。今夜の晩餐会に間に合わなくなるぞ。各自配置に着け」
俺は、カレーで最も難しい香辛料の調合と調理をやるのと平行し、米を炊く準備とナンを焼く準備をする。
この二つがないと、やはりカレーの楽しみが半減してしまう。ここら辺では、米よりもパン食のようでボーロを含め料理人は米が気になってる様子。
チラチラとこちらを見てる。後で味見させてあげるから、手元を見ろ。包丁で指を切るぞ。
米を炊くのに大釜はないか探して見ると………………あった。流石はマーリン女王の城だ。
パーティーを開催される事も度々あるそうで、その時に大量作る時に使用されるらしい。
早速大釜に米を、およそ30合入れ洗う。量が量なので磨ぎ汁を十回程捨てたと思う。
洗い終わった米の上に備長炭を2本入れた。備長炭を入れる事により、米のヌカ臭さが炭に吸引され、逆に炭のミネラルが米に染み込み、粘りけが生じふっくらと炊き上がる訳だ。昔の人の知恵だ。
蓋を締め火を着けたら後は炊き上がるのを待つのみだ。
次にナンは、強力粉と薄力粉を絶妙な割合で混ぜ合わせ、ぺーキングパウダーとドライイーストに塩・砂糖を加え、水を入れ纏まったら、そこに無塩バターを入れ捏ねる。
このナン生地を30分程、寝かせ発酵させる。後は、麺棒で伸ばし焼き上げるだけだ。
本場では、タンドールという土釜で焼き上げるのが一般的だけど、無かったらフライパンでも焼けるで心配無用だ。
「いよいよ香辛料の登場だ」
一言、香辛料と言っても数百種類も及ぶ。そこから適した香辛料を探し出し使用するのは口で言うのは簡単だが、実際やるとすると難しい。
カレーに使う香辛料は60種類あるとされ、そこから一種類のカレーに使われる香辛料は、およそ3~10種類程度だ。
「先ずは香り着けの香辛料であるシナモン・コリアンダー・シナモンを寸胴鍋で炒める」
香りを飛ばさないよう弱火~中火で焦がさないよう炒める。この際、香辛料の原型であるホールスパイスの状態で入れるのがポイントだ。
「よし、おい切った野菜とワイバーンの肉を入れてくれ」
「おぉ、これが香辛料の匂いなのか?!」
これ以上焼き続けると香辛料の香りが飛んでしまうと判断したカズトは、ボーロ達に具材の投入を指示した。
厨房内は香辛料の香りが充満しており、刺激的で食欲を祖剃る。自分で言うのもアレだが、今直ぐに食べたい気分になってくる。




