SS6-4、赤薔薇隊長ライラのスローライフ~シャルと模擬戦~
アリスとシャルの卓球勝負は、アリスの勝利に終わった。アリスが勝ったご褒美というよりは、命令によりライラとシャルの決闘をするため、今現在レストラン〝カズト〟の地下にある訓練所に来ている。
「ライラがシャルにどれくらい喰らいつくのか楽しみじゃ。ワクワク」
「はぁ、何でこんな事に」
約束だから仕方ない。それに相手は、他国のご令嬢の付き人だ。護衛として相当な腕のはずだ。
「準備が出来が次第、開始したいと思います」
「私は何時でも大丈夫です」
シャルという付き人は、一見槍みたいな柄が長い武器を手に持ってる。おそらく、あれが噂に薙刀なのだろう。
鬼人族が好き好んで使うとされる武器だと聞いた事がある。
槍の刃先よりも刃身が広くカーブを描いている。それに柄も長く見える。
「では、始めるのじゃ」
アリスから始まりの号令が訓練所に響き渡り、シャルとライラの模擬試合が始まった。
「はぁぁぁぁぁ、伸びろ【ローズウィップ】」
鞭状にライラの剣が伸び、シャルに襲い掛かる。剣なら直線状に斬撃が来るが、ライラの手首にのる捻りで軌道が変わる。
これにより死角からの攻撃も可能になる。正面から来ると思わせて背後から剣先を襲わせる。
「ふむ、自由自在に剣先の方向を変えられるのか。だが、甘いです。【舞~円舞~】」
当たるはずの死角からの攻撃が当たらない。いや、剣先が自ら避けてる?!
ただシャルは、ただ踊っているだけというのに一向に当たる気配がしない。
「妙な真似をする。鬼人族は踊るように戦うと聞く。それが噂の」
「はい、鬼人族に伝わりし戦闘技法【舞】です。無数の型があり、それを捕らえるのは不可能というもの」
それにしてもシャルの【舞】は美しい。女であるライラが惚れ惚れするような美しい戦闘だ。
「くっ」
見惚れてる場合ではない。早く次の一手を考えないと、シャルが迫って来てる。
「これならどうだ。覆い尽くせ【赤薔薇のダンス】」
剣の勇者カズトもこの技で包囲した。これなら逃げる術はないはずだ。
「では、私も更に挙げていきましょう。【舞~球舞~】」
「なっ!」
ライラの瞳には信じられない光景が映ってる。何人ものシャルが出現した。
これでは狙いが定まらず、周囲を覆い尽くし捕獲する事が困難になる。
「これは見事じゃのぉ。ライラ、ヒントをやろう。本物は一人じゃ。別に増えた訳ではない」
「残像ですか?!」
「姫、タネを明かさないでください」
「おぉ、怖い怖い。もう言わん」
アリスの言う事が本当なら偽物を一人一人潰せば良いだけの事。
捕獲する事は断念したが、無数の剣の鞭を出せる【赤薔薇のダンス】には無意味だ。
「くっ、これも偽物。これも」
「何処を狙ってるのですか?」
考えが甘かった。偽物を切り刻んでも次の偽物が現れる。きりがない。だけど、それは相手も同じのはずだ。
この技を続ける限り攻撃に移せないのだから。攻撃してきた時がチャンスだ。
「私が攻撃出来ないと思っていますか?」
「そ、そんな事は思ってない」
心を読まれた?いや、そんなはずはない。心を読む技術や魔法なんて聞いた事がない。
「顔に出てますよ。残念ですが、この状態からでも攻撃は出来ます」
「なにっ!」
声をする方へ攻撃するが、又もや偽物であった。一掃の事、一気に押し潰すか?
「防いでご覧なさい。【舞~剣舞~】」
「くっ」
薙刀から斬撃が無数に飛んで来る。いや、無数に見えて本物は一ヶ所からしか飛んで来ない。他は偽の斬撃で、当たっても衝撃はなく通り過ぎるだけだ。
「そこぉ」
ガキン
「良く分かりましたね」
ようやく本物に当てる事が出来たが、薙刀によって受け止められている。
「わざとですね。わざと自分の居場所を知らせるような真似を」
「さぁ、何の事でしょうか?」
白々しいと感じるが、それは仕方がない事。明らかにこちらが実力不足のうえで遊ばれていた。
「お返しとして、これを受け止めてみなさい。押し潰せ【赤薔薇のレクイエム】」
小円盾を取っ手を掴みながら上空へと投げた。十分な高度を確保すると、小円盾が、訓練所を覆い尽くす程に大きな刺鉄球へと変貌を遂げ、そのまま落下してくる。
「成る程成る程、魔物相手ならそれでも良いでしょう。ですが、種族相手なら悪手ですよ。【舞~剣舞・極~】」
シャルは大刺鉄球を叩き切った。真っ二つになった大刺鉄球は、シャルを避けるよう左右に落下した。
「これで勝負ありです」
いつの間にかライラの首筋に薙刀の刃先が寸止めで添えられている。
「負けだ」




