140食目、斧の勇者と槌の勇者と鬼人の王子
「セークス女王よ、そのくらいにしとけ。カズト殿が困ってるでないか」
「うふふふふっ、可愛くてつい意地悪してしまったわ」
シドニス王が止めてくれたおかげで、セークス女王は俺から離れてくれた。離れる際に耳元で一言「後で部屋に来て」と俺にだけ聞こえるよう小声で囁いだ。
「そうだ、紹介しよう。ほら、出てこい」
シドニス王の号令で、馬車に待機していた者が降りて来た。鬼国シェール側から男性二人、巨人大国クルセイナ側から女性二人が姿を現した。
「やはりカズト先輩でしたか」
「声からパイセンだと思ってた」
「お前ら、無事で何よりだ」
カズトをカズト先輩と呼ぶ男性は、鬼国シェールの勇者であり他国では斧の勇者と呼ばれてる。名前は、岡崎翔貴━━━━カズトの高校生時代の後輩である。
鬼人族らしく端から見ても筋肉ムキムキで、ノースリーブのジャケットぽい服を前を開けて着てるからか、筋肉が余計に強調されている。それと額に角を二本生えており、何故かイケメンに見えてくる。
肌の色は俺達と同じだが、髪の色が黒ではなく赤だ。身長は俺よりも一回り大きい2.5mはある。
地球にいた頃は、俺の方が身長高かっただけに何か悔しい気持ちが湧き上がってくる。
もう一方のカズトをパイセンと呼ぶ女性は、巨人大国クルセイナの勇者であり他国では槌の勇者と呼ばれてる。名前は、相沢サクラ━━━━同じくカズトの高校生時代の後輩に当たる。
こちらは黒髪ロングで、身長は俺より若干低い程度だ。本当に巨人族だとは思えない程に普通だ。ただ、一ヶ所を除けばの話だ。
それにハイレグを思わせる服装を着ており、女性ぽい体のラインが丸和かりで女に耐性がない男どもには目の毒だ。どうやら、巨人族の女性にとっては、これが普通だそうだ。つまりは民族衣装みたいなものだ。
カズトにとっては、嫁がいるのもあるが後輩という事もあり普通に下心なしで目を見て話せる。
地球にいた頃は、高校を卒業後二人ともカズトとは、進学した大学は違えどカズトの料理を食べるために、カズトのバイト先にたまに来ていた。
社会人同士になったからは、月一のペースで顔を合わせたりしていた。もちろん、カズトの料理が目当てである。
「くっはははは、やはり知り合いであったか」
「サクラ、本当に良かったですわ。これで遠慮なく、カズトを我が国へ招待する理由付けが出来たものですわ」
同じ勇者で、しかも昔からの知り合いなのだから、自国から他国に訪問しても何ら不自然はないと考えてるのだろう。
それでもそうそう行ける訳ではない。一般の冒険者や商人なら何も許可や手続きもなく国から国へ行き来は出来るが、カズトは勇者だ。自国に許可を取らないと自由に行き来出来ない。
だけど、自由に行き来出来る裏道がない訳でもない。
「直ぐにという訳にはいきませんが、何時かは訪れたいと思います」
「うふふふふっ、その日を待ってますわ」
自分の国へカズトが来るかもしれない口実を作る事が出来、余程嬉しいのだろう。ニコニコと幼い少女のように微笑むクルセイナ女王を見詰めると、こちらまで自然と笑顔になってくる。
カズトも自由に旅を出来る立場ではないが、まだ訪問してない国へ行けるかもしれないと、内心ワクワクが止まらない。
「ショウの隣にいるのは、我が息子だ」
「オレは、コウリュウ・シドニス王の嫡男、ガリュウ・シドニスだ。剣の勇者よ、会えて光栄だ」
「こちらこそ、私はグフィーラ王国にて剣の勇者をやらせてもらってますカズトです。カズト呼んで構いません」
「うむ、オレもガリュウと呼んでくれ。カズトの噂は我が国まで、届いているぞ。カズトの料理は、どれも美味しいらしいな。世界会議メープルが終われば、是非カズトの店へ行きたいものだ」
翔貴と同じく2mは越え、下手したら3mはあるんじゃないかと思える程にシドニス王と負けない位に大きい。カズトが、まるで子供ように思えてくる。
ガシッと男の友情が芽生えたように握手を交わす。やはり、カズトが子供のように右手が、スッポリとガロウの右手に隠れてしまう。
「我が妹は元気か?もしも泣かせたら、どうなるか?分かるよな」
ちょっと右手が痛い。ギシギシと骨が鳴ってる。
「あ、アリス様ですね。えぇ、元気にやっております。昼間は、地下にある訓練所にてシャルさんと訓練をやっております。私がお作りなりました料理を美味しく召し上がりになりますので、料理人冥利につきますね」
「そうか、それを聞いて安心した」
やっと右手を離してくれた。ヒリヒリと右手の甲が赤く腫れている。




