139食目、鬼人族の王と巨人族の女王
俺も城内に立ち去ろうとした時にタイミングが良いのか、悪いのか馬車が二台ほぼ同時に到着した。
一つは見覚えがあるマークが扉に施されている馬車だ。鬼人族のシンボルである戦斧と酒瓶を合わせたようなマークだ。
魔族領に辿り着く過程で立ち寄った鬼人族の大国、鬼国シェールのシンボルマークだ。鬼人族の戦士全員、体の何処かに刻んでいるという。それだけ誇りのあるマークだ。
もう一つの馬車は見覚えはない。土龍を思わせる龍が戦槌にまとわりいているようなマークが同じく扉に施されている。
「陛下お着きにでございます」
先ずは鬼国シェールの馬車の御者が戦斧と酒瓶のマークが施されてる扉を開ける。
馬車の中から先ず現れたのは、鬼人族と言うのに相応しい立派な角が額から生え屈強な肉体をした男だ。鍛え上げられた肉体を見せ付けるために、無駄な装飾品は身に付けず上半身ほぼ裸だ。
まるで、その肉体自体が鋼鉄で出来た鎧のようだ。剣や槍の刃先が一切通らずに欠けてしまうところを容易に想像出来てしまう。
「馬車で座ってるのも難儀だ。肩が凝ってしまうわい」
馬車から降りて来た目の前の屈強な鬼人族の男が、ゴキゴキと首と肩の関節を鳴らす。
背丈がカズトよりも高く、優に3mは越えている。カズトが子供に思えてくる。
「おぉ、そこにいるのはカズト殿ではないか?!」
「ご無沙汰でございます。シドニス王」
ガシッと長年の友人のように親しく握手をかわす。
端から見たら大の大人と幼い子供が握手してるように見える。それだけ身長差がある。
「シドニス王、これを差し上げます。肩凝りに効く薬でございます。肩に貼ると、直に肩凝りが解消いたします」
「ほぉ、こんな小さな物がな。ありがたく使わせてもらうぞ」
シドニス王に渡したのは、【異世界通販】で取り寄せた肩凝りに良く効くエ○キバ○だ。
【異世界通販】で取り寄せた地球産の物質は、例外はあるが大抵の物質は地球で使用するよりも数段能力向上してるか、別の能力が付加されてる。
「おぉ、これは良い。肩凝りが解消したぞ。それに以前よりも力が漲ってくるようだ」
いやいや、効き過ぎだと思う。貼った直後に解消とか、どんだけ効き目があるんだよ。
それだけではなく、パワーが上昇してるようで、とんでもない物を渡してしまったのだろうか?
「カズト殿、どうも助かったわい。長年苦しんでいた肩凝りが解消して体に羽根が生えたように軽い。後で褒美を取らせようぞ」
「喜んで貰え光栄です」
改めて握手したところで、もう一台の馬車の扉が開き降り立ったのは、種族名を言わないと普通に人間と間違えてしまう程に普通過ぎる。本当に人間に似てる女性だ。
ただ、王族だからか。背中と少々谷間が見える程度のドレスで着飾ってる。赤を基本色として色鮮やかな宝石が散らばらめいている。
「おぉ、やはりセークス女王じゃないか!それにしても似合わぬ格好をしてるでないか。かっははははは」
「うるさいぞ、シドニス王。妾とて、こんな格好をする積もりではなかったのよ。だけど、周りのもんがうるさくての。仕方なくて、こんなドレスを着る羽目になってしまったのよ」
王族同士なのだから当たり前だけど、シドニス王と知り合いのようた。
「シドニス王、こちらの見目麗しい女性は……………どなたですか?」
だいたい予想はつくが一応聞いてみる。
「紹介するぞ。巨人大国クルセナの女王、シャルラ・セークス女王じゃ」
ぎ、巨人族!カズトの予想とは違った風貌に表情へ出さないが、心底驚いている。
巨人族は、どの種族よりも遥かに巨大なのが特徴だとカズトは記憶している。というより、冒険者ギルドにある資料室にある種族の特徴を記した書籍に記されていた。
だが、その書籍は人間視点で書かれてるため八割程間違ってるといえる。
「お会い出来光栄です。私は、"剣の勇者"カズトでございます」
「そう緊張しなくて大丈夫よ。予想と違ってガッカリかしら。人間から見た巨人族は、常に巨大な人間だという認識なのだから」
流石は女王という事だろう。俺の緊張を察知し、緊張を解そうとカズトに近寄り微笑みながら語り掛けてくる。
王族らしく香水を掛けてるらしく、仄かに香りが漂ってくる。キツい匂いではなく、すれ違うと香る程度で好印象を持てる。
カズトは料理人の訳でキツい香りの香水は嫌うのだが、シャルラ女王陛下の香水は好きな匂いだ。
「陛下、顔が近いです」
「初な反応よのぉ」
いやいや、こんなところをレイラに見られたら後が怖いから離れようとした様子が、シャルラ女王陛下には初な反応と見られたらしい。




