137食目、鎖の勇者と樹精族第一王女
「捕捉致しますと、国事態が移動してる訳ではなく、国に入るための入り口が一定の間隔で移動してるのであります。我々の国は、次元が違うと申しましょうか、この世界に存在はしてますが、他の場所にまるで影のように重なるみたいに存在してるのでございます」
うん、全然分からない。ちんぷんかんぷんだ。俺の頭上には、ハテナマークがいっぱい並んでる。
今は、分からなくても女王陛下が俺を招待したそうに接して来てる。これは、いつか行く事になる予感がビシバシと伝わってくる。
「そういえば気になった事が一つありまして、発言宜しいでしょうか?」
「何かしら?」
「樹界マトリョーシカの勇者は何処に?」
「あら?ずっとそこにいるわよ?」
ルルシーが指差す方向に振り向くと、そこにはいつの間にか二人以外の樹精族が二人立っていた。
二人共に女性のようで、髪質や服装はルルシーに似ており、色の濃淡はあるが緑一色だ。やはり、これが樹精族の文化みたいなものなのか?
一人は、カズトと同じく20代前半くらいの年齢に見える。もう一人は、10代いってるか、いってないかくらい幼く見える。
驚くつもりはなかったが、いなかったはずの場所にいると少なからずビクッと驚いてしまう。
「女王陛下よりご紹介を賜りました、樹精族の勇者であるサンドラ・ミッシェルです。カズトさんのお噂は聞いております」
「それはどうも。初めまして、グフィーラ王国にて勇者をやってるカズトだ。よろしく、サンドラさん」
勇者として初対面だったのは、これで二人目だ。普通なら確率的に知らない者の方が多いと思うが、何故かカズトの知り合いが多い。
これは宝くじに当たるよりも低確率になるかもしれない。それも、まだ再会してないが妹までも来てるのなら尚更だ。
お互いに地球出身らしく、握手を交わす。サンドラの掌からは体温は感じられず、まるで木の表面を触ってるかのようだ。
「樹精族は、他の体温が低いみたいなんです。初めての方だと、カズトさんのように驚かれる方もいます。それよりも、カズトさんの作る料理を食べてみたいです」
やはり、どの勇者も例外はなく地球の料理が食べたいようだ。キラキラと瞳を輝かせ、カズトの両手を握ってくる。
「えぇ、よろしいですよ。それで、そちらのお嬢さんは、どなたですか?」
樹精族の勇気であるサンドラの背中に隠れるようにこちらをチラッチラッと外見10歳位の少女が見詰めてる。
恥ずかしがり屋か人見知りなのか、まるで子犬みたいに可愛い。つい護ってあげたくなるような衝動に駆られる。
「こちらの方は、樹界マトリョーシカの第一王女であらせられますリリシー・ドルン姫殿下でございます。さぁ、リリシー姫殿下、彼が剣の勇者でありますカズトさんです」
ゆっくりとだが勇気を出してサンドラの背後から俺に向かって歩いて前に出て来る。
良く見ると、予想よりも幼いように見え本当に護ってあげたくなるような気持ちになってしまう。
「あ、あたしが樹界マトリョーシカ第一王女リリシー・ドルン。あの……………これにサインをお願いします」
リリシーから手渡せられたのは一冊の本。その本は、俺と魔王を討伐するまで共に旅をしたパーティーメンバーの武勇伝を描かれてる勇者伝説というタイトルの本だ。
確か森精族のフゥ姫殿下も同じ本を持ってる。引き合わせたら、話が合うと思うが俺の話をされると気恥ずかしい気持ちになる。
「あんまりサインをしたことないから、下手だけど許して欲しい」
「カズト兄様のサインなら何だって良いです。あっ、カズト兄様って呼んでも良いですか?」
こんな可愛い女の子に兄様って呼ばれると、何か癒されるようなトキメくような不思議な気持ちになる。
もちろん、俺は了承した。こんな可愛い女の子に兄さんって呼ばれて嫌がる男なんていないだろう。
一応言っとくが、俺はロリコンでないからな。
「これで良いかい?」
見返し部分に自分の名前を漢字を崩したようなサインを書いてあげた。何と読むか分からないようだが、サイン本を受け取ったリリシーは実に嬉しそうである。
「あ、ありがとうございます」
「リリシー、良かったわね」
「はい、お母様」
えっ!姉妹だと思ってたが、親子だったのか?!ヤバすぎだろう。
ルルシーを最初見た時は、15歳だと思ってた。前国王が早死にすると、若い内に国王になる事は珍しくない。
ちょっとルルシーの年齢が気になるが、女性に年を聞くのはマナー違反だ。それに聞いたら相手は王族だ。不敬になってしまう。
「参考までに、食べられない食べ物はありますか?」
「樹精族は、動物系由来の食べ物を苦手でありますな。食べられない訳ではありません」
「ありがとうございます。参考になりました」
ふむ、なるほど。森精族とは違い、苦手だけど食べられると。頭の片隅に入れていよう。




