136食目、樹精族のご到着
「お部屋のご用意が出来ましたので、こちらに」
執事長がキューティーを含む龍人族の面々の元へけして走らず、それでいて素早く駆けて来た。
「ハク、お姉さんのところへお戻り」
「キュルルル」
悲しそうな瞳を、こちらへ向けるがカズトはスルーする。キューティーに抱っこされた後も、こちらを見詰めては悲しそうな声で姿が見えなくまるまで鳴き続けていた。
「カズト、俺もお嬢のところへ行かなくちゃだから、またゆっくり話そうぜ」
「あぁ、みんなも健吾と会いたがってるはずだから。後で案内する」
龍人族の面々を城内へ見送り、カズトも戻ろうとした時に他の魔力が察知した。
これは地面から?普通なら地上と上空へ魔力察知を伸ばしてると、おそらく見逃してしまう。
そうこうしてる内に地面から木の根みたい物体がニョキニョキと何本も生え、それが纏まり一本の太い木の幹へとなっていく。
幹の真ん中が割れ両側に開くと、そこから一人の男性が出て来た。髪が細い根を思わせるクセっ毛で、服装全体が緑一色に統一されている。
男性が完璧に這い出ると、木の幹は何も無かったかのように地面に潜っていった。穴も何も失くなっている。
「ここは魔法大国マーリンでよろしいですかな?」
「あっ、はい。ここは魔法大国マーリン、マーリン城の門前でございます。失礼しました。私めは、"剣の勇者"のカズトでございます」
「これはこれはご丁寧に。ワタクシは、ダナンと申します。この度、樹精族の国である樹界マトリョーシカの女王:リリア・マトン陛下の近衛隊長に就任致しました。どうか、お見知り置きを」
隊長という割には部下らしき者はいないし、女王の近くにいなくて大丈夫なのか?それに若く見える。
だけど、その内包するオーラは見え隠れしており、経験は浅そうだが隊長になるだけはある。
「それで女王陛下はどちらに」
「既にご到着であります」
えっ?一体何処にいるというのだ?背後、真横に地面の中、一応上空にも探知してみたが、見つからない。
「カズト様の後ろにいらっしゃいます」
ダナンに言われバッと背後を振り替えると本当にいた!俺の魔力探知に引っ掛らないなんて、相当な隠密系の技術を持ってるのか?
「クスクス、キューティーちゃんの言う通りね」
樹精族の特色なのだろうか?髪がダナンと似ており植物の根や蔓で出来てるかのような質感だ。
それに濃淡はあるが、緑単色のドレスを着ている。ダナンもそうだが、樹精族全員そうなのだろうか?
「ようこそ、来て頂き感謝致します。私は、"剣の勇者"のカズトでございます」
「驚いてくれないのね」
「いえいえ、心底驚いています。ですが、私は勇者である傍ら料理人や商人をやっておりますゆえ、表情に出さないよう気をつけてるのでございます」
本当に内心では驚いている。だって、振り向いた瞬間に数cm程に近くにいたからだ。
ある意味一瞬ホラーだと思った。心臓が飛び出しそうになった。よくもまぁ声をあげなかった俺を自分で褒めたい。
「陛下、先ずは自己紹介を致しませんと」
「分かってるわよ。妾は、樹界マトリョーシカ女王ルルシー・ドルンよ。カズト様は、龍の渓谷ドライアーに行ったのよね?」
「えぇ、行きました」
魔族の国である魔族領の手前にある国だ。魔族領に入るには、絶対に龍の渓谷ドライアーを通らなければ行けない。それ以外に魔族領へ行く手段はない。
いや、一つだけ危険を承知の上なら存在する。魔の森と呼ばれる大森林を抜ける道だ。だけど、狂暴な魔物が徘徊しており、下手に通れる場所ではない。
「なら、妾の国にも来てくれても良いわよね?」
「えーっとそれは……………」
直ぐに判断出来ない。そもそも樹界マトリョーシカは、地図に載ってない謎に包まれた国だ。
地図に載ってないとは何の揶揄でもない。本当に地図に載っておらず、この世界とは違う世界にあるとも噂されている。
もしも行ったら戻る事は出来ないとされてる事から、〝神隠し〟と言われる事がある。
だけど、それなら世界会議メープルに参加出来るとは思えない。きっと何処かに必ず存在し、少なからず行き来してる者がいるはずだ。
「そんなに怯えなくても良いわよ。我が国は存在するし、ちゃんと行き来出来るから安心するが良いわ。だけど、常に移動してるから発見するのは至難の業だけどね」
この女王は、今なんて言った?国が移動するだと?!そんなバカなと笑い飛ばしたいが、魔法や技術があるファンタジーな世界で笑えない自分がいる。




