SS1-42、帝国の三勇者~レストラン〝カズト〟に到着~
本当に1日、2日掛かる道程を半日程度で走り抜いてしまった。古都の門手前で一旦止まり、アクアを【人化】させた。
「やっと着いたぜ」
「ここに兄さんが」
いる。最も会いたい大事な人が、この街の何処かにいる。そう思うだけで、今までの苦労が水で洗い流すように報われるという気持ちになっていく。
だけど、その反面今までの疲れが一気に出たようで足腰がカクンと力が抜け、地面に座り込んでしまう。
「おい、リンカ大丈夫か?」
「兄さんに会えると思ったら腰が抜けちゃって」
「何だよ、それ」
「きっと今までの心労が祟ったのですわね」
「ほれ、オブってやるからよ」
「なんか、屈辱」
だけど、満更でもない。本当に嫌なら動けない状態でも抵抗する。大人しくメグミの背中に身を預ける。
「待たれよ。何か身分を証明するものはあるか?」
門に常駐する近衛兵に止められた。各々、ギルドカードを出し身分を証明するが、アクアだけ身分を証明するものを持ち合わせていない。
「身分証明を持ってないと銀貨一枚を徴収させて貰ってますが、よろしいですか?」
「これでよろしいかしら?」
アクアの代わりにココアが銀貨一枚を近衛兵に手渡す。ココアの満面な笑顔に近衛兵は茫然と立ち尽くしていた。
「はひっ!ど、どうぞ。お入りください」
「ありがとう」
王城がある王都程ではないにしろ、古都も十二分に賑わっており、門から入ると喧騒が耳に入る。
「ここがグフィーラ王国の古都」
「兄さんに会える」
「カズトさんのお店を探しますか」
「いや、俺が知ってる。何せカズトのパーティーにいたんだらな」
魔王討伐後、パーティーは解散となったが、お互いに手紙のやり取りをやっていた。
「確か、ここら辺のはずだが」
「あれじゃないかい?」
ルカールカが指を差した方向にそれらしき看板を掲げてる店を発見した。
「レストラン〝カズト〟……………ここのようですわね」
「よっしゃぁ着いたぜ」
「長い道程だった」
「ここにリンカの姉御のお兄様が」
「よし、入るぞ」
ガラガラ
扉を開けると昼過ぎというのにソコソコ混んでおり、店内に料理の芳しい匂いが充満し、これだけでも食欲が増して来る。
「いらっしゃいませ。あれ?もしかして、ゴンとルカさんじゃないの!」
「おぉっ!ドロシー、久し振りだな」
「ドロシーさん、久方振り」
出迎えてくれたのは、かつての仲間であるドロシー。かつての仲間に会えてゴンとルカールカは歓喜極まる。
「少し人数がいるが、空いてるか?」
「えぇ、個室ならちょうど空いてるわ。案内するわね」
ドロシーを先頭に着いて行く。手紙と噂で聞いてたが、繁盛してるようでなによりだ。
空いてる個室に着くと、各々席に着く。個室の内装を見るに、王城の客室なのかと見間違う程に豪華な仕様となっている。
「こんな部屋に通して大丈夫なのか?!」
「えぇ、今日は王族・貴族のお客様は来ないから。十二分に使ってちょうだい」
「兄さんはいます?」
「兄さん?」
「すみません。この子の兄、カズトはいますか?」
「カズトの妹さん?!ちょっ、ちょっと待っててね!」
そりゃぁ、急に店主の妹が来たと聞いたら驚く。それにドロシーにとっては夫の妹という事で二重で驚いてる。
「ゴン、リンカが来たというのは本当か?!」
「に、兄さん!」
「おぉ、リンカ」
兄妹の感激の再会だと、ここにいる者達は思うだろう。だけど、思っていた感動の再会ではなかった。
バンっ
「兄さん、会いたかった」
パチッ
「俺も心配してた」
シュっバンっバコっ
「兄さん、結婚したと聞いた」
バコっ
「グヘっ、何処でそれを」
カズトとリンカの兄妹は、習慣的に組み手をしている。端から見るとケンカしてる風に見えるが、お互い対してダメージは負ってない。
「おめでとうとは、今は言わない。だって、分身なんでしょ?」
勘というか、リンカの察知能力がずば抜けている。本人とそう大差はないはずだが、雰囲気とか家族だからこそ見抜ける何かにより見抜いたのだろう。
「なに?コイツがカズトじゃないと言うのか?!」
「リンカの言う通りだ。ここにいるのは俺本人が聖剣の技術で生み出した分身体だ。ただし、本人と感覚を共有してるから、ここで見聞きした事はアッチにも届いてるはずだ」
リンカ以外ポカーンと茫然自失となり、分身体だという目の前のカズトを隅々まで見渡していた。




