SS1-37、帝国の三勇者~ツノウサギ~
ワクワク
「メグミ、そんな瞳をキラキラさせても道を反れないですからね」
「えっ!お、オレは何も言ってねぇぞ」
「顔に書いてあります」
ココアじゃなくても無邪気な子供のような満面な笑顔を振り撒いていたら誰だって気付く。ウンウンと全員で頷く。
「わ、悪いかよ。冒険者なら誰だって強いヤツと戦いたいのは異常なのかよ」
「そうは思わんが、下手にSランク魔物と戦えば、こちらが負けるぞ?」
ゴンの言い分にメグミは意義を申したいが、上手く言葉が出て来ない。
「それと無駄に命を散らすではない。魔物だって生きてるのだぞ。その命を糧にするならまだしも、お前のはただ単に戦いたいだけだろう?」
「うぐっ!」
またしても正論を言われ、グゥの音も出ないでいる。まぁここがシャングリラの森でなかったらゴンも一緒になって高ランク魔物を追い掛け回していたかもしれない。
だけど、最も身近なダンジョンであり最も危険なダンジョンであるシャングリラの森では、勇者パーティーに入っていたゴンでさえ用心する。それだけシャングリラの森は危険だって事だ。
「お前ら三人だけならSランクのエリアに挑んでも良いだろうけどよ。おそらく、ジャックやルカにはアレは対応出来ないだろうな」
Sランクのエリアに入っても勇者三人なら対応出来そうだが、敵は魔物だけではない。
ランクが高いエリアだとダンジョン自体が敵となったりする。凶悪なトラップが新しく構築・設置され、気候・風景がガラリと変わり、冒険者を苦しめる。
いや、それだけならまだ可愛いものかもしれない。
「一回アレを体験してみると分かる。地獄だとな。今、生きてる事が不思議なくらいだ」
「それを言ったら逆効果です」
「……………ワクワク」
「絶対に行きませんからね」
「ショボーン」
メグミのテンションの高低差が激しい。行く気まんまだったのに断れテンションだだ下がりだ。
「あれなら狩って良いぞ」
進む道沿いにツノウサギという額にユニコーンを思わせる立派な角が生えている魔物がいる。
ランクはDで、角に気を付けていれば、それほど危険な魔物ではない。
それに小柄なクセに肉質は良く、出会ったら食料として狩る冒険者が多い。
そして、角は武器の素材に毛皮は衣服の素材に贅沢をしなければ一週間は過ごせるお金が稼げる。
「ツノウサギか……………ジュル……………腹が減って来たではないか」
『『『ギュッ!』』』
「こらっ!待てぇぇぇぇぇ。オレのごぉぉぉぉぉはぁぁぁぁぁぁん」
メグミのギランとした殺気にツノウサギ達は、そそくさと踵を反して涙目になりながら逃げた。
だけど、Dランクの魔物がSランクの冒険者の足に敵う訳がない。
ほんの数秒でツノウサギに追い付きツノウサギの進路を塞いだ。違う方向へ進むとしてもメグミに先回りされる。
「はぁははははは、行くぜぇぇぇぇ。風の聖槍ブリューナク」
聖槍ゲイ・ボルグを風の聖槍ブリューナクに変化させると、森全体の木々がミシミシとざわめく程に風が吹き荒れる。
「【風薙】」
ブリューナクを突くのではなく、横に払った。一見ツノウサギに命中していないように見えるが、払った瞬間に風切り音が森全体に響き渡り、気付いた頃にはツノウサギの喉笛を適格に切り裂かれ絶命していた。
「はぁぁぁぁぁ、これじゃ不完全燃焼だぜ」
「メグミ、あなたはお馬鹿さんなんですか?」
「なんだよ、急に」
調子に乗ってるメグミの頭をポコッとココアが叩く。叩かれたメグミは痛そうに頭を擦ってるが、特にダメージはないはずだ。
「そんな広範囲に影響を及ぼす技術を使って、あなたはお馬鹿さんと言ってるのです。私達まで巻き込まれたらどうするのですか?」
メグミが使った【風薙】は、カズトの風の聖剣スサノオの技術の一つ【カマイタチ】に良く似た技術だ。
制御出来なければ、周囲の味方までも切り付けてしまう。危険な技であるが、制御が出来ていれば一気に複数の敵を仕留める事が出来る。
「制御出来ていたから良いだろ?」
「良くありません。ワタシ達三人だけならまだしも、他の人もいるんですよ」
「あぁぁぁぁ、はいはい分かった分かったから」
「リンカも何か言ってください」
「もし制御が外れたらリンカが防ぐから」
「………………」
リンカが簡単に飛んで来た目に見えない風の刃を防いでいる様子が容易に想像が出来てしまい、ココアは何も言う事が出来なかった




