SS1-35、帝国の三勇者~リンカ、姉御と呼ばれる~
飯を食べ終わったところで宿屋を出た。というタイミングで、リンカの名を叫びながら走って来る男らしき人影があった。
「ハァハァ、やっと見つけた。リンカのお嬢━━━━いや、リンカの姉御、ちょっとお待ち下さい」
走って来た男は、昨日リンカにボロ負けしたAランク冒険者であるジャックだ。
姉御と連呼するので、リンカはスルーして立ち去ろうとしたが出来なかった。何故か両隣にココアとメグミにより腕を捕まれ拘束され動けずにいる。
「何をするのです!二人して裏切るのか」
「良いじゃないか。探していたみたいだし」
「あれ程に叫ばれては、こちらまで恥ずかしいではありませんか。なので、大人しくしていて下さいね」
一人なら兎も角、二人相手ならリンカでさえも苦戦を免れえない。
「ハァハァ、リンカの姉御にお願いがあって参りました」
「何なのです?」
「俺を弟子にして頂けませんでしょうか?」
ジャックは、日本の十八番と言える礼儀の一つである土下座を披露した。
この日が高い時間帯で、人々が行き交う通りにて土下座という目立つ行為をしたなら自然と野次馬を呼んでしまうのは必然的だ。
「頭を上げるのです。何故リンカなのです?他のパーティーメンバーはどうしたのです?」
そうジャックは、リンカの記憶が確かなら『勇敢な有翼の獣』というパーティーのリーダーのはずだ。
「パーティーは解散した。パーティーマネーも全部置いて来た。昨日、リンカの姉御と戦い負けた後、ピキーンときたのだ。この人に着いて行けば、更に強くなれると」
ウーンと考える素振りを見せるリンカ。端からそう見えるだけで、実は念話によりココアとメグミとで会議していた。
(どうするのです?)
(どうするって、おめぇ連れて行くしかねぇんじゃねぇか?リンカが嫌じゃなければ、だけどよ)
(こちらにはゴンさんしか男手がいな━━━いえ、間違えました。男手三人にまりますから、大歓迎ですよ)
(おい、メグミ。今、オレを見なかったか)
(気のせいではないですか?)
ジャックをパーティーへ入れると賛成は、ココアとメグミの二人は確定。ゴンとルカールカも入れても良いと頷いた。
残りは、リンカの判断に託された。
「みんなが良いならリンカも構わないのです」
「ありがとうございます。リンカの姉御」
再びジャックは、感激のあまり何度も土下座をした。頭を下げる風圧で額の下に小さなクレーターが出来つつある。
「それよりも、その『リンカの姉御』という呼び名を止めて欲しいのです」
流石にリンカでもそういう呼び方は恥ずかしい。漫画やドラマで出て来るヤンキーのリーダーみたいで、表情で出さないが内面では『ない』と引いている。
「リンカの姉御はリンカの姉御です」
「他の呼び名を御所望するのです。普通にリンカで良いのです」
「いえ、弟子ですのでリンカの姉御と」
この後、どうしても訂正しないジャックに対してリンカによる調教という名の一方的な殴り合いが繰り広げられた。
一応抵抗するジャックだが、昨日と一風変わり一つもリンカに着弾しない。
魔力がなくなるまで殴られ続け、ジャックが一歩も動けられない時には、もう夕暮れになっていた。
動けないジャックをゴンが部屋へ運び、明日に出発という事なった。
「プンプン、ジャックのせいで出発出来なかったのです」
「リンカのせいでもあるじゃないか?」
「何か言ったのです?」
「いや、何でもない」
明らかに機嫌が悪いリンカに睨み付けられ、メグミは自分の言葉を引っ込めた。
今まででトップに引けを取らない程の殺気に当てられメグミは萎縮してしまう。
「まぁまぁ男手が増えて嬉しいじゃないですか」
リンカとは正反対にココアは満面笑顔となっている。というより、この状態を楽しんでる伏しがある。
「リンカの攻撃に耐え続けるなんて、ジャックも凄いじゃないか」
鍛冶屋の地下にてリンカの技術の一部を垣間見ていたからか、数秒しかジャックは持たないと思っていたルカールカ。
だから、単純に凄いと称えている。
「ルカ、お前の目は節穴か?リンカは手加減していたぞ。本気で嫌なら殺す気でやってる。つまりだ、リンカも満更で━━━━━ぶへっ」
「ハエがいたのです」
リンカの裏拳がメグミの顔面にのめり込み椅子ごと後ろへ倒れ込んだ。




