SS1-33、帝国の三勇者~マンガ肉~
リンカ達三人は、冒険者ギルドを後にした。時間的には午後6時くらいだろう。
鉱石の洞窟ガリウムは、国外から太陽光が取り込めない代わりに大規模魔道具:太陽により太陽光と同じ効力を国全体に与えている。
これで鉱石の洞窟ガリウム内にいても大体の時間は分かるって寸法だ。それに農作物もこれによりちゃんと育つ。
「鉱石の洞窟ガリウムの中にいるのに夕日が見れるなんて不思議だぜ」
「キレイなのです」
「あれが魔道具だとは到底信じられないのですわね」
鉱石の洞窟ガリウムの天井を見上げ、日本人らしい感性により感動していた。住人である土精族なら絶対に言わない台詞である。
それとたまに国外から来た種族で太陽を、どうにかして盗もうとする不届き者が現れる。
魔道具というのは、ピンからキリまであるがどれも高額で、安くても贅沢をしなければ半年は楽に暮らしていける程だ。
鉱石の洞窟ガリウムの国宝である魔道具:太陽を、他の国に売れば一生遊んで暮らせるだけではなく、3~4世代くらいは楽に暮らせていけるだろう。
だけど、そう簡単には盗める物ではない。ギリシャ神話に出て来る『イカロスの翼』みたく、太陽に近過ぎた者は、みんな例外なく燃えて死ぬらしい。
グゥゥゥゥゥ
「オナカ空いたぁぁ」
「あらあら、では宿に戻りましょうか」
「オレは、酒が飲みてぇな」
リンカ達三人は、大規模魔道具:太陽が暗くなる前に土竜の洞穴亭に急いだ。
早く飯を食いたいのもあるが、三人の後を着いて来てる者がいると気付いていたからだ。
それも十数人と屋根や建物の影に隠れて息を潜めてるらしいが、リンカには細かく隠れてる場所はバレバレだ。
ほぼ全員から殺気が駄々漏れであり、これから殺るぞと大声で言ってるようなモノなので、今直ぐにでもボコボコに出来る訳だが、今は三大欲求の一つである食欲を優先しただけである。
ココアとメグミも、もちろん気付いていたが正確な人数と場所までは分からなかった。
「着いた着いた。さっさと食おうぜ」
魚と次は肉を食いたいという訳で、岩蜥蜴を使った料理を何品か頼んだ。
先ず出て来たのは、漫画で良くある骨付き肉━━━所謂、マンガ肉だ。正式名称は分からないが、マンガ肉で良いだろう。
「たまにはお上品に食べてはどうです?」
「あっ?!何だって?」
メグミが、岩蜥蜴のマンガ肉がテーブルに置かれた瞬間にかぶり付いた。
某王道冒険ファンタジー漫画の主人公のようにむしゃむしゃとメグミの注意を無視し、食べ続ける。
「こういうのは、かぶり付くのがマナーだぜ」
「そんなマナー聞いた事ありません」
「……………モグモグ……………ゴクン」
ココアとメグミが口喧嘩してる横で、岩蜥蜴のマンガ肉をメグミがやっていた食べ方で、ものの数分で一つを平らげた。
「はぁー、リンカもお行儀悪いですわよ」
頬に当てため息を吐くココア。この二人にマナーを叩き込ませようとした熱意は、この世界でパーティーを組んだ時から抱いていたが、今はもう半ば諦めいている。
「ココア大丈夫」
「何が大丈夫なのですか?」
「リンカ達、冒険者。食事のマナーなんて無いのも同然」
「クッハハハハハハ、そりゃぁそうだ。マナーで腹は膨れねぇ。そんなもの犬に食わせておけば良い。マナーなんて、貴族や王族にならなきゃ必要ねぇさ」
「くっ!だからと言って、そんなに口の周りを汚す理由にはなりませんわ」
リンカとメグミはお互いを見詰め合い、パチクリと瞼を瞬きした。
二人の口の周りはベットリと油や肉片がこびりついている。そんなだらしない様相を見た二人は、お互いに笑い出した。
「プックスクス、メグミ汚いのです」
「クッハハハハハハ、その台詞そっくりそのまま返すぜ。リンカも人の事、言えないぜ」
「恥ずかしいから、早く口の周りを拭きなさい」
布製のフキンでメグミは仕方ないと風に拭いた。だけど、リンカは自分で拭く積もりがココアが先に布製のフキンを取られ、口の周りをフキフキと拭かれるのであった。
その様子は、まるで仲の良い姉妹に見え周囲から見ると和やかに見える。だが、リンカは激しく抵抗している。
だけど、その抵抗をココアによって阻止されている。その攻防が周囲にいる客や店員からは速すぎて見えていない。
「ほら、拭けたわよ」
「くっ!屈辱なのです」




