SS1-31、帝国の三勇者~真実の瞳~
冒険者ギルドの客室の一室まで気絶してるジャックを運び入れソファーへ取り敢えず寝かす事にする。
「今日は面白いもんを見れた。業務を投げ捨てて駆け付けた甲斐があったってもんだ。ワッハハハハ」
それってダメなのではとココアは首を傾げる。その疑問は最もだった。
ギルドマスターであるクラインの場所を何処かで聞き付けたのか?ギルド職員らしき人物が、数分後にドタドタと勢い良く部屋に入って来た。
「ギルドマスター、こんなところにいました」
「げっ!クルスが何でこんなところに!」
クルスと呼ばれた森精族の男から逃げるよう後退りするが、出入り口はクルスの背後。
逃げ隠れ出来る場所がない。ジリジリとクラインにすり寄って行き、一瞬であった。
一瞬でクラインの背後を取り軽々と羽交い締めにした。クラインの抵抗も虚しく、地面に突っ伏している。
「み、見えたか?」
「バッチリなのです」
「予測ですが、風魔法の類いを使ったのではと。風の流れを読み・操り相手に気付かれず、背後へと近付いたようですね」
クラインを拘束してるクルスが驚きの視線をココアに向ける。
「よくぞ、お分かりで」
「私に隠密系の技術や魔法は効きません。むしろ、丸分かりでした」
「気配を隠す気がないのです。素人なのかって話なのです」
「………………俺ももちろん解っていたぜ」
((ウソですわね(なのです)))
リンカとココアの二人だけ分かったのに、一人だけ見えてなかったと知られるのは癪というよりプライドが許さないメグミは、ついツマらないウソをついてしまう。
いつも行動を共にしてるリンカとココアにはバレバレだが、敢えてそれを口にしない二人には頭が上がらないメグミである。
「紹介が遅れたな。ワイは、冒険者ギルドガリウム支店で副ギルドマスターをやってるクルスと言うもんだ。にっしても、こんな別嬪を三人も連れ込んでウチのギルドマスターは何をなされてたのですかいな?」
「ご、誤解だ。ワタシは、この娘達の訓練を拝見してただけなんだ。この娘達は、なんと全員がSランク以上なんだ。これは見るしかないと思ってね」
「………………はぁ~、どうやらウソはないようで残念な限りだな」
クルスは、クラインの拘束を解いた。手首を擦り立ち上がるクラインは、ソファーにだらしなく座る。
「にしても、Sランクとは……………副ギルドマスターを長い事やってるけど、初めて見たわ」
ジロジロとリンカ達三人を体の隅から隅まで観察している。別にイヤらしくないが、何か神に見詰められてるようで三人は落ち着かない。
「その辺にしとけ。この娘達が怯えてるじゃないか」
「それはスマン事をした。これで楽になったと思うが、どうだ?」
リンカ達三人ともにコクンと頷き肯定する。先程の落ち着かない変な感覚は消えている。
「もしかして、魔眼ですか?」
「おや?最初もそうだが、良く分かったな」
魔眼は、特殊な魔法を付与された瞳の総称だ。魔眼が発現するメカニズムは、今だに不明だが例外なく先天性だという事。
後天的に発現はせず、人工的にも瞳に付与する事は不可能とされている。もしも人工的に魔眼を作ろうとしたなら必ず失敗し、失明してしまう。
「ワイの魔瞳は【真実の瞳】で、ワイの前ではウソは通用しいひん」
「それだけではないでしょう。相手の実力は解るわ、武器・防具の細かい材料成分まで解るわで凄い魔眼のはずですよね」
クラインがバラした事にチッとクリスは舌打ちをする。
またクラインを羽交い締めにしようと考えるが、クラインがバカなのは治らないと半ば諦め、クラインの隣へ座る。
「ウソを見抜くだけでも大変だというのに、そんな事まで出来るなんて今まで良く無事でしたね」
「どういう事だ?」
「ウソを見抜くだけでも普通ならそんな魔眼を多様するなら精神が病んでもおかしくないです。私なら人間不信になりますね。それに情報が一気に来て頭がパンクしちゃいます」
最早一個人が成せる業ではない。まぁそれを言うなら勇者もだが、勇者は聖武器という安全装置により護られてる。
だけど、クルスはそうではない。一人の能力だけで【真実の瞳】を扱っている。スーパーコンピューター並みの演算領域がないと出来る所業ではない。
もう一種の呪いなのかと思われる魔眼だ。もしもリンカ達三人が、同じ魔眼を持っていたとしたら同じく振る舞えるであろうか?
おそらく廃人になってるであろうとココアは口に出さないが、そう思ってる。




