SS7-27、女婬夢族ジブリールの居場所~盗賊の残党を操る~
二人が滅茶苦茶にした大地を元に戻した《正義》は、廃墟の屋敷で休んでいた。
所々床や壁が朽ちてはいるが、今までミスティーナが率いる盗賊団のアジトとして使って来たのだ。
居住スペースは、ちゃんと小綺麗にしており中々贅沢を言わなければ快適である。
《正義》を含めた三人は、盗賊の残党が帰って来るまで各々で休んでいた。
「帰って来たようね」
「全員いるか?」
「えぇ、いるわよ」
ミスティーナの結界により残党の帰宅が直ぐに分かる。これで一網打尽に出来、任務終了だ。
「それじゃぁ、行ってくるわ」
怪しまれないよう頭であるミスティーナが対応する。《正義》とジブリールは、それぞれ死角になる位置へ陣取り逃げ場を失くす。
(予想していたが、まだ結構いるな)
バレないよう隠密系の技術を使用し、建物の影から残党達を見詰めているが、ミスティーナが危険になったら飛び出るつもりだ。
人数が人数だけに《悪魔》の能力を持ってしても一気に記憶を改竄は出来ない。
やはり完璧に記憶を改竄するには相手に触れ、【記憶改竄】を使うしかない。
それでも離れたまま使っても一時的に全員の動きを止める事は出来る。そこから完璧に掛け直せば良いと《正義》はミスティーナに伝えてある。
「やっと帰って来たね。全く待ちくたびれたよ」
「えへへへ、すいやせん。中々カモが見つからないもんで」
「それで勝利品は何処だい?」
「へい、ここですぜ」
ガチャガチャと金属音がする麻袋をミスティーナに手渡そうとする漆黒土精族の男に近付き、麻袋を手渡された瞬間に一瞬だけ指に触れた。
その時に【記憶改竄】を掛けた、それも完璧に。
自転車を一回乗る事が出来れば、その後も乗れるように一回使い方さえ修得出来ちゃえば、相手の隙を見て掛ける事も可能だ。
それに半日の内に技術を進化させたようである。
(うふふふふ、さぁ思う存分にやりなさい【記憶改竄:動く死体感染】)
最初に記憶を改竄した者が、まるでゾンビのように他の者へ触れ、その触れた者が記憶を改竄され、また次の者へ触れる。
そういう風に感染するように広まっていき、ものの数分で残党どもは記憶を改竄され、生きた人形と化した。
「もう出て来ても大丈夫ですわよ」
物陰から出てきた二人だが、目の前の出来事に唖然と開いた口が塞がらない。
《正義》とジブリールの二人は、アイコンタクトで『こいつにだけは怒らさないようにしよう』と頷いた。
「これ全員本当に記憶を改竄出来たのか?」
疑う訳ではないが、こんな人数を一瞬で掌握出来るとは目にしても中々信じられない。
《正義》でも簡単に出来る事ではない。もっと時間が掛かるだろう。
「安心しても良いわよ。あなた達には使えないから。というより魔神教会の幹部以上の方達には使えないわね」
「そういう制限なのか」
「そうみたいね。改めて使ってみて分かったわ。使おうとしても失敗して、自分に跳ね返ってくると」
「それを聞いて安心したのよ」
それにしても壮観だ。既に焼いてしまった漆黒土精族数名と記憶を改竄済みの黒森精族三人を除外し、今だに外の様子に気が付いてない内部にいる人間を引くと、およそ30人前半くらいか。
普通なら生きて捕らえた盗賊を引き連れて歩くのは、相当時間を要するが記憶を改竄されてるためスムーズに戻れるだろう。
それに途中で別の盗賊や魔物が出現した時なんか手伝って貰うのもアリだ。
「カズヤ様、ご迷惑をお掛け致しました。我々何の遠慮なさらず売って下されば、我々一同こんなに幸せな事はありません」
残党のリーダーらしき男が《正義》に頭を垂れ、忠誠を誓うように片膝をついている。
他の者もそれに続くように片膝をつき頭を垂れる。まるで《正義》が王様になった気分だ。
「おい、ミスティーナよ。お前、何をした」
「なにって、ただ記憶にカズヤの忠誠心を植え付けただけよ」
忠誠心を植え付けたって、かなり変わり過ぎではないか。服装や装備品は兎も角、性格や態度が盗賊とかけ離れて逆に怖さを覚える。
それでも反逆されるよりはマシかとポジティブに考える事にした。
「よし、お前らこれから護送するが、適格に歩けよ」
大人しい残党達は暴れないだろうが、ロープで最低限縛り上げ、イナクスへ出発した。




