128食目、エビチリ
フレイ閣下はご満悦のようでフゥ様と花を咲かせている。カズトは邪魔にならないようトラブルが起こってないか会場を巡回する。
特段大きなトラブルもなく順調に朝食という名の会食は進んでいく。どれもこれも見た事のない料理のようで次々と料理は消費されていく。
追加の料理を作るタイミングもボーロにコツを教え、細かい箇所を聞かれる程度に収まってる。
まだカズトみたく指示は完璧でないが、世界会議メープルの開催中にカズトがいなくても回せるだろう。
ただ、肝心の料理の技術と知識はまだまだ追い抜かせる訳にはいかない。調理中に技を盗み見られてもカズトは、その上を行くだけだ。
「うん、特段にトラブルもないし、このまま何もなければ良いんだけど………………」
多種族が集まれば何かしらのトラブルは付き物だ。まだ安心は出来ないが、このまま乗り切れるよう全力を尽くすつもりだ。
そう考えながら見回りをしていると、とあるテーブルから手を振りカズトの名前を呼ぶ者がいた。
「おーい、カズちゃーんこっちこっち」
「恥ずかしいから止めんか」
カズトを呼んでいたのは、タマモ様とフォルス様だ。大声で呼ばれ手招きされている。
恥ずかしいから他人のように振る舞いたいが、ここには王族とその護衛の者しかいないので、他人のフリは出来ない。不敬になってしまう。
「フォルス様タマモ様、おはようございます。今日もお変わりなく、お美しくおられます」
「フォルちゃん、美しいだって」
「そんなのお世辞に決まっておろう。良い年して何をはしゃいでおる」
「フォルちゃんだって、ニヤついてるわよ」
「そ、そんな訳あるか!」
いや、タマモ様の言う通りにフォルス様の口角が上がっている。誰から見てもニヤついてるのは明白だ。
一方のタマモ様はというと、こちらは頬に掌を当てイヤンイヤンと嬉しそうに体をくねらせている。実に態とらしく、カズトは若干引きぎみだ。
ここは苦笑いをするしかない。
「あっははは、料理の方はどうですか?」
「うむ、この〝サバのポワレ〟とやらは美味じゃのぉ。外側はサクサクで中側は柔らかくトロけるようじゃ。普通に焼いては、こうはならん」
一見、ただ焼いただけのサバの切り身だが、ポワレという初歩的なフランス料理の技法が用いられている。
焼いてる時に油を常に上から垂らし掛ける事で皮がパリっと仕上げられる。
「流石です。食通で有名なだけあります。油を常に垂らし掛けながら焼くのです。そうする事で皮がパリっと仕上げられます」
「ほう、それだけでのぉ。妾も知らなかったわ。お抱えの料理人に真似させても宜しいかぇ」
「えぇ、構いません」
まぁ簡単に真似出来るものならな。口で言うのは簡単だが、実際に出来るというのは、また別の話だ。
ボーロを含めその部下達に教えたのも料理の入り口に過ぎない。手に入り難い食材や一朝一夕で習得出来ない技法も使用してるから、そう簡単に真似されても困る。
豆腐作りに関しては丁寧に教えたが、豆腐は加工食品で料理とはまた別物だから教えた。
「カズちゃん、私は〝エビチリ〟とやらが美味なのよ。ピリリと辛さと海老のプルンとした歯応えと甘さがマッチしてるのよ。初めて海老を食べたけど、こんな味なのね」
この世界では種族問わず海産物は、魚しか食べない。カズトが魚を取引してる漁港のオッサン達もあんなに美味しそうで立派なカニを廃棄しようとしてた。
受け入れてくれるか不安だったが、みなさんの反応みる実験目的でエビチリを作ってみたが………………どうやら大人気みたいだ。
エビチリに使用したのは、車海老だ。活きの良い車海老を調達出来たので、使用してみた。
タマモ様だけでなく、他の王族の皆様も魚以外の海鮮に興味があるらしく、最初の頃は珍しさから。徐々に美味しさが伝わり、お代わりも続出している。
「調理する前まで生きてましたので、新鮮でないとプリプリとした食感は中々出ません」
「これが〝エビチリ〟になるまで生きていたというの!」
魔法による冷凍技術は確立してるとはいえ、それは死んでいての話だ。生かしてるまま輸送など本来の魔法では出来ない。
強いて言えば、種族で習得出来ないとされる闇属性の魔法の中に時間を止める時空間魔法があるらしいが、それは最早神話やお伽噺の話になってくる。
「えぇ、食材の管理もするのが料理人の務め。食材の状態を把握出来てないようでは料理人失格です」
「厳しいのぉ。しかし、その厳しさが皿に現れておるのじゃな。その厳しさがあるからこそ、美味な皿になるわけじゃ」
「お褒め預り光栄です」
食材を新鮮なまま調理出来るのは、アイテムボックスや異世界通販を使用出来るカズトの技術があってこそと言われれば、それまでだ。
だけども、カズトの言う通りに食材の状態を把握してるとしてないとでは大違いだ。
もしも腐ってる食材を調理してお客様にお出しになったら大問題になりかねない。




