119食目、ブラッシング
「ほぉ、それは興味深いな。妾にも、その〝まっさーじ〟とやらを頼むとするかのぉ」
「フォルちゃん、私が先に頼んだから私からね」
フォルスも乗り気でタマモの提案を止めるどころか、むしろ進んで参加する始末だ。
俺、男なんですよ?そこを忘れてませんかね。流石に他国の王族……………それも女王の素肌を触るなんて国際問題に発展しかねない。最悪、戦争という結末がまってるかもしれない。
「カズちゃん、私の尻尾の毛並みに最近ツヤが失くなって来てるの。どうにかならない?」
えっ?尻尾?あっはははは、そうだよな。男の俺に素肌を触らせるはずはないもんな。あぁ、焦って損した。まぁそりゃぁ、俺だって男ですから期待していたさ。
まぁでも、俺はモフモフも大好き……………じゃない。大好物なのだ。地球では料理人という仕事をやっていた傍ら、いつかは動物を飼ってみたいと思っていたが不衛生という理由から断念していた。
だけど、この世界に召還されてから地球の常識に囚われる事もなくなった。この世界には、普通に獣人がいるし俺にとって天国である。
ドキドキ
「では、そちらのベッドに横たわってください」
「カズちゃん、横になったわよ。何時でも良いわよ」
やる直前になってから緊張してきた。
マッサージというより、ブラッシングをやるためにアイテムボックスからブラッシング用ブラシを手に取ると、手が震える。何か粗相をしたら国際問題になりかねないと手が震える。
「ふぅ~……………では、参ります」
カズトは震える手を抑えながら深呼吸をし、無駄な気持ちを排除する。料理に取り掛かるみたくスイッチを切り替え集中する。
料理とブラッシングは、やる事は違うが仕事なのは変わりはしない。相手が満足いく仕事をやるだけだ。
ブラシを手にしてる俺は、目の前の光景に圧巻で驚き半分とやりごたえがあるワクワク感を感じていた。流石は九尾の妖狐ということか。
種族の名前の通りに尾が九本あり、遠目から見るとフサフサでモフモフ大好きな俺にとって天国でしかない。
しかし、近寄って分かる。タマモの言う通りに毛並みのツヤがくすんでおり、所々毛玉やムダ毛がある。これが本来のツヤと色合いを邪魔してるのだろう。
折角のモフモフが台無し………………ゲフンゲフン……………ツヤツヤにしてしんぜようか。
サァーーーサァーーーー
「ふにゃ!ふっふはぁーー!はにゃん」
サーーーーサーーー
「はぁんあぁんやぁん」
サーーーーサーーー
「あぁんらめぇやぁん」
「さっきから変な声出すの止めてくれません」
ただ単に尻尾を梳かしてるだけだよね。そんな卑猥な声を出したら、事情を知らない人が聞いた途端に勘違いされてしまう。
「こんなにトロけてるタマモを見たのは初めてかもしれぬ」
「だ、だってぇ~、めちゃくちゃ気持ち良いんだもの。フォルちゃんも試したら良いのよ………………あっソコ…………イイ」
これを後、残り8本の尻尾をブラッシングしなきゃならないのか。やってる俺の方がこのままでは気が滅入ってしまう。
どうにかしなければ!そうだ、頭の中にて無心による諸行無常を唱えるしかない。疚しい心がなければ、この状態を切り抜けられよう。
サーーーーサーーー
「あぁーんやぁん」
サーーーーサーーー
「はっふぅんソコ………………ソコなのぉぉ」
ヤバい、本格的に二本目にして俺の心が折れそう。こういう事が分かり切っていたからこそ、レストラン〝カズト〟でのマッサージの施術は、レイラとドロシーに教えてからは全てを任せて俺はノータッチを貫き通している。
どうしても俺を指定された時に場合に限り、俺が施術をしている。まぁその場合の値段は一回り高い設定としている。
サーーーーサーーー
「タマモさん、声を抑えて貰えませんか?」
「はっうぅん、お姉さんの声で欲情でもしちゃった?」
「プッククククク、欲情って年を考えろや。タマモよ。お主に欲情するなど天変地異が起きてもあり得へんわ」
サァーっと俺の顔面が蒼白になっていくのを感じる。おそらく部屋の温度の体感的に5℃~6℃は下がってる。確実に下がってるよ、これは!
この異常な温度変化の原因は、タマモだ。フォルスの毒舌に怒り浸透だけで、この異常気象を起こしてる訳だ。
「フォルちゃん、言って良い事と悪い事があるって知ってるかな?」
「はて?妾は真実を言ったまでの事よ。何をそんなに怒る必要があるのじゃ?」
あわ、あわわわわ!ここでこの二人が戦ったら、間違いなく城は消し飛ぶ事だろう。
俺の聖剣でどうにか防げないか思案するが、タマモに捕まってから取り出せずにいる。聖剣がないと一般人並みだ。
「二人とも止め!あれ?取り出せた」
「むぅ!」
「ふむ!」
二人が腕を振り下ろす瞬間に何故か分からないが、聖剣を取り出す事に成功し二人の【恐】を消し飛ばした。部屋の温度も元に戻り、普通に呼吸が出来るまでには戻ってる。恐怖感もなくなり、これで一先ず安心だ。
恐怖感が失くなったカズトは、聖剣エクスカリバーを闇の聖剣ジャック・ザ・リッパーに形態変化をし、二人の間へと入り喉元に刃を向けた。




