116食目、レイラの兄はカズトのファン
カズトが神樹の森フリーヘイムの王様達にプリンを提供してる頃、グフィーラー王国一同が集まる部屋ではテーブルを囲んで家族団欒と勤しんでいた。
「グフタフ兄様、レベッカ義姉様お久し振りでございます」
「おぉレイラか!あのお転婆娘が、こごでキレイになるとは夢のようだ」
グフタフは魔法大国マーリンへ婿養子に嫁いでからは、かれこれ6年程自国には帰っておらず、その間カズトと魔王討伐の冒険に出ていたレイラとは文字通り6年振りの再開だ。
「レイラちゃん、本当にキレイになったわね。これも恋がなせる業なのかしらね。風の噂で聞いたわ。"剣の勇者"様と結婚したのでしょ。何か辛い事はないかしら。いくらでも力になってあげますわよ」
「グフタフ兄様、レベッカ義姉様ありがとうございます。私……………レイラはご心配せずとも幸せです。充実した日々を過ごしております」
「そう、なら良いのだけれど」
「レイラに頼みがあるのだが、後で"剣の勇者"殿に伝えて貰えないか。二人切りで話があると……………」
グフタフはカズトに"剣の勇者"として外面的に敬意を払ってるが、内面的ではレイラの兄として沸々と可愛い妹のレイラを奪ったカズトに怒り心頭だ。
ただし、グフタフは怒りに任せカズトを襲う程、バカではない。むしろ、今のレイラの表情を見れば、幸せなのは一目瞭然なのだ。だから、一人の兄として……………男としてカズトと二人切りで面と向かって話し合いたいと考えた次第だ。
「解ったわ。後でカズトに伝えておくわね」
分かっていた事だが、こう名前で呼び合ってるのかと思うと、グフタフの内側から沸々と再度怒りがこみ上がって来る。けども、可愛い我が妹を見るや落ち着いてきた。
「そうだわ。カズトからグフタフ兄様とレベッカ義姉様へと預かっていた物がありました。遠征からお疲れでしょうから、お食事をご用意してあります」
グフタフとレベッカは、魔法騎士隊と共に遠征へと行って来たばかりで今夜の晩餐会には間に合わなかった。なので、まともな食事は取っていない。
だけども、時間が時間なので何かを食べるには遅すぎる。しかし、お腹が減ってるのも事実で何か口出来れば良いと思ってる。それが、あの憎っき"剣の勇者"が作りしものでもだ。
「あい分かった。家族の雑談が終わった後に取ろう。おいそこの者、俺と妻が食事する場を設け待機せよ」
「はっ!畏まりました」
執事がグフタフの任を受け部屋から立ち去った。
自分が産まれた国であるが、今では嫁いだ身の上であるため他国になったグフィーラ王国。その他国からこちらまで噂は届いている。
"剣の勇者"殿が宿屋を開いたと。最初は耳を疑ったものだ。勇者という者は、表向きは魔物を討伐し人々を助けるのが使命になってる。裏向きでは、所属するというより召還された国々に飼い殺される存在だ。
父上がそんな事を知らないとは思えない。むしろ、レイラと結婚させ飼い殺しにするつもりか?いくら父上でもグフィーラ王国以外に"剣の勇者"殿が行くようなら止めたと思われる。
「まぁ~、あの有名な"剣の勇者"様のお料理が召し上がれるなんて………………夢のようですわ」
「ふん、どうせ。庶民が喜ぶような料理なのだろう?レイラの顔を立てて食ってやろうだけ感謝してもらいたいものだな」
「あら?アナタ知らないの?レストラン〝カズト〟といえば、各国の貴族もお忍びで来るそうですわ。それにワタクシ知ってますのよ」
「な、何をだ?」
グフタフは額や掌から冷や汗が止まらない。レベッカの事をこの世界中誰よりも愛してると自負してるが、口ケンカでは毎回論破されるし、魔法の才能を重視する魔法大国マーリンでは頭が上がらない。
つまり簡単に言えば尻に引かれてるという事に同義だ。だけどまぁ、グフタフ本人からしたら………………それが心地好くて堪らない。が、これを妻を含め誰かに話したりはけしてない。引かれるのが目に見えてるからだ。
「アナタの本音は、"剣の勇者"様に早く話し合いたいと思ってるのでしょう?"剣の勇者"様のファンなのは知ってるのよ。勇者伝説の新刊が並ぶ日には、前日の夜中から並んでるのを」
「な、何の事かな?!」
「この人ったらツンデレなところがあって……………そこが素敵なんですけど」
「………………」
惚気を話したと思ったら、ポッとレベッカの頬がほんのりとピンク色に染まっている。
グフタフというと、レベッカの暴露話に羞恥心を覚え言葉が出なくなってしまった。穴があったら入りない気分に違いない。
この後、何故かグフタフとレベッカの馴れ初め大会に発展した後に遅めの夕食を食べ就寝に入ったのは、夜中の2時頃だったという。




