SS8-14、スゥの1日~スゥ、アゲハ隊隊長と戦う~
遅れてすみません。
最初に仕掛けたのはジョルだ。一番近いスゥの【分身体】へ迷いもなく距離を詰めていく。
お互いの距離がゼロになった時、ガキンと金属音が響き渡った。ジョルのナイフと【分身体】が粘液で形作ったナイフぽい武器が交差したのだ。
「ほぉ、武器を作り出せるのか」
「ソンナノシラナイ。アナタコソハヤイ」
剣道でいうところの鍔迫り合いで、お互いの力は拮抗している。押し返し押し返されを繰り返し中々二人の距離は離れない。
「【粘弾】」
【分身体】がジョルの顔に向けて粘着性のある透明な液体を口から飛ばした。
だけど、ジョルの咄嗟の反射神経でリンボーダンスのように腰から体を『つ』の字に曲げて回避した。
その際の勢いでバク転を2回ほどした後、後退してしまう。
(これは粘着性のある液体ですか?これを出来るのは、もしや!)
「アタッタトオモッタ。ナラ、コレナラドウ?【酸弾】プップップッ」
今度は緑色の液体を玉状にして飛ばした。明らかに毒々しい色合いにジョルは防御するよりも、アレはヤバいと回避行動を取る。
「床が…………壁が溶けただと!」
白い煙が上り、所々の壁や床が何かで抉れたように溶けた。ジョルの判断は間違っていなかった。
もしも、防御していたなら、自分もあのようになっていたかと考えると、顔や口には出さないが内心ドキドキしている。
「やはりお前は粘体族か?」
「ウン、ソウダヨ」
スゥの【分身体】が肯定した事によりジョルの冷や汗が頬から床に伝い落ちる。
魔物のスライムならEランク、新人冒険者でも簡単に倒せる。
だが、種族の粘体族は軽く見積もってもAランクは下らない。先ずは物理攻撃が完全無効にする【物理完全無効】という永久技術を所持している。
ただし、その代わりに特定の属性魔法には極端に弱いという弱点がある。それ故に魔法使いがいないパーティーでは、全滅もあり得る。
(ここでは炎は使えない。他には雷が有効だと記憶しているが、私は使えない。土もこの床では然程効果は期待出来ない。さて、どうしたものか?)
粘体族は、水属性を得意とするため同じ水では効果がない。風属性も切り刻むだけで、これも効果が薄い。
水を蒸発させるとこらから炎、水を吸収するとこらから土、水を感電させるところから雷が有効とされる。
ただし、場所が問題だ。ここは地下で炎属性だと空気が失くなり窒息する恐れがある。
土属性も場所を選び、土の表面が露出していないと十分な効果を発揮出来ない。残るは雷属性だが、雷はジョルに適性がなく使えない。
(仕方ない。本当は、こんなところで使いたくなかったが)
ジョルは手袋を外した。右手の甲には、ギリシャ数字で10という文字が書かれている。
「アレハ!マジンキョウカイノシンボル」
「ほぉ、これを知っておるのか。左様、ワタクシは魔神教会の幹部、No10《運命の輪》ジョル。ここで会ったのは何かの縁。貴様は強い、我々の仲間にならぬか」
「オコトワリ。アッカンベー」
「そうか、なら殺すしかないな。稀少種族である粘体族を殺すのは忍びない」
まさかココで魔神教会の幹部と会うとは誰が思っただろうか?本当に【分身体】を送り込んで正解だったか。
スゥ本体が侵入していたとしたら、いくらAランク以上と言われていても部が悪い。
「センテヒッショウ【水鉄砲】」
低学年までの男児が良くヒーロー物等のごっこ遊びで、人差し指と親指で銃の形作って遊んだ人いるだろうか?
あのように銃の形作り、指先から大豆程の大きさの水玉が発射された。
だけど、真っ直ぐには飛ばず妙な軌道を描き向こう側の壁に当たった。銃並みの威力はあるらしく、壁に楽々穴を開けた。
「ヘンデスネ?ヘンナホウコウヘマガリマシタ。アナタナニカシマシタネ?」
「さぁ?何の事やら?(危なかったですね。もしも、当たっていたら頭貫通していました)」
見た目以上に速度と威力がある。強クラスか下手したら極クラスに該当する水属性魔法だ。
見た目に油断したら死亡するところである。それに詠唱を破棄しているところから初見では回避は至難の業だ。
だけど、命中しなかったのはジョルの技術に他ならない。
ジョルが魔神教会に入ってから取得した能力、《運命の輪》は云わば運命を操作する技術。まぁそれだけではないが。
もっと簡単に言えば、この世のあらゆるモノの確率を自由自在に変化させられる。
ただし、使用する時には自分の運を使用しなければならない。
スゥの【分身体】が放った【水鉄砲】の当たる確率をほぼゼロとしたのだ。
どんなにあり得ない事でも確率を弄れば、過程はどうであれ結果として現れてしまう。それがジョルの能力よ一部分だ。
これで今年の更新は終わりです。
また来年よろしくお願い致します。




