SS8-13、スゥの1日~スゥの【分身体】、アゲハ隊に見つかる~
ジョルが率いるアゲハ隊が地下に突入する前、スゥの【分身体】達はベルトコンベヤの前で作業してる獣人の奴隷達の直ぐ側まで来ていた。
何かを作ってるようだが、近くで見てもそれが何なのかスゥには分からない。
スゥの目から見て完成品であろう物品を密かに手に取り、そのまま飲み込んだ。
本体と【分身体】は繋がっており、店にいるはずの本体へと態々届けなくともただ飲み込むだけで、一種の転移魔法みたく届ける事が出来る。
他にも探り証拠になりそうな品物を飲み込みたいところだが、そう簡単にはいかないのが世の常、他の【分身体】が地下へ何者かが降りて来ると全員に念話があった。
『キンキュウキンキュウ、ダレカガオリテクルモヨウ』
敵か見方か、ここは敵の陣地であり、おそらく心臓部だろう。十中八九、敵の可能性大だ。
敵側に感知出来る者がいない限りスゥの【分身体】達は、【透明化】しており隠密に長けている。そう易々と見付かるはずがない。
『1、2、3、4………………16ニン、クロイヤツラガオリテキタ』
各々の【分身体】は、壁の側面や天井に張り付き息を殺してやり過ごそうとする。
だけど、正確な場所は特定されてないようだが黒装束の者の一人がキョロキョロと辺りを見渡しながら【分身体】の一人に近付いて来る。
「…………近くにいる気がするのだが」
「お疲れ様でございます。この度はどうしましたか?アゲハ隊が、こんなところまで来るとは非常事態ですか?」
「貴様は、ライオン隊の隊長か?なに、侵入者がいると我々の隊長が言うのでな。探しているのだ。怪しいヤツを見なかったか?」
ふとライオン隊隊長は、考える素振りをし首を横に振った。このフロアを見回りしていたが、スゥの【分身体】には気付いていない。
「いえ、見てないです」
「そうか………………そこか」
ライオン隊隊長と話してるアゲハ隊の一人が壁に向かってクナイを数本投げた。
それも背後に目でも付いてるみたいに投げて来た。何本かは壁に突き刺さり、スゥの【分身体】から外れた。
だが、数本のクナイに隠れるように一本のクナイがスゥの【分身体】に向かって来る。それも急所を狙って放ったように。
もし殺られてもまだ数体の【分身体】がいる。だけど、【分身体】全員でアゲハ隊を殲滅した方が確実だと判断し、急所に来るクナイを弾いた。
「ほら、やはりいた」
「我々も助太刀致しましょうか?」
「いや、相手は相当な手練れだ。お前らは、他の奴隷を護れ」
「はっ!お前達、聞いていた通りだ。行くぞ」
どうやらアゲハ隊だけで、他の者達は戦いに参加しないようだ。観念して【分身体】の一人は、【透明化】を解きアゲハ隊の前まで出て行く。
「ドウシテ、ワカッタノデスカ?」
「経験の勘というヤツだ。それに気配を完璧に消すなんて芸当、見た事ないんでな」
「おや?早速見つけた様ですね」
「ジョル様!」
ジョルと呼ばれた男を見るとスゥの【分身体】は、ピクッと眉間が動いた。
ジョルという名前に聞き覚えがあるからだ。確か、ブローレ商会会長ブランの右腕がそんな名前だったと一応頭の片隅に覚えている。
「ブランノミギウデカ?」
「おや?多少なりにこちらの情報が知られてるようですね。お前達、計画変更です。生きて捉えなさい。ただし、腕の一本や二本は千切れても構いません」
「はっ!」
アゲハ隊全員でスゥの【分身体】一人に襲い掛かろうとジリジリと詰め寄る。
だが、アゲハ隊は気付いていなかった。【分身体】を勝手に一人だと決め付け、感知を怠ってしまう。
アゲハ隊の一人が目の前にいる【分身体】に襲い掛かる瞬間、天井から半透明なトゲが無数に降り注ぐ。
「ダレモヒトリダトハイッテマセン」
「ギリギリデカワシマシタカ」
「ぐっ!」
「攻め急ぎましたね」
「隊長すみません」
ジョルは、部下の謝罪を無視し両目を瞑る。目の前にもう一人スゥの【分身体】が出現したという事実からまだいる可能性を考慮し、自分を中心とした半径およそ100m程を感知魔法を発動させた。
「ふむ、まだいるようですね。それにしても、どうやら希少種のようだ。我々の奴隷になりませんか?悪い様にはしません」
「オコトワリ」
「オマエナンカニツカワレルクライナラシンダホウガマシ」
「おやおや、随分と嫌われたようですね。では、捕まえた後は拷問に掛けますかな」
懐から軍人用ナイフみたいな刃物をジョルが取り出し右手に逆さで持つ。そして、カチリと丸メガネを人差し指で位置を微調整し絶対的強者が放つような威圧感をスゥの【分身体】全員に放った。




