SS8-11、スゥの1日~ライファン、ブランと商談するその2~
ゴクゴク
「ぷはぁ~、これは何という旨さ。似ているがエールとは別格な旨さだ」
「ニャッハハハハ、やはりお主も分かるにゃ。我も初めて飲んだ時はそう感じたにゃ」
エールは常温で飲むというよりもそれが当たり前で、みんな気にしないのが正しい。
生ビールのように冷やして飲む事事態がほぼ不可能。氷魔法を使える魔法使いなんてそうそう用意出来るものではない。
冷やす事が、この世界では現実的ではない。あるとすれば、ここと同じ様に大商会で高級食材を扱う時くらいだろう。
氷魔法を使用出来る魔法使いを数名用意し、交代しながら目的地まで掛け続けるというのが一般的だ。
コンコン
「失礼致します。お茶でございます」
「遅いぞ。ふん、下がってよいぞ」
貴族の間で密かに流行してるメイド服を来た女中がお茶を運んで来たが、ブランは不機嫌となってしまう。
「お見苦しいところを見せて失礼致しました」
「いや、我は別に気にしてないにゃ(先程の娘、上手く隠してるが、匂いで獣人だとバレバレにゃ)」
ブランは、大の獣人嫌いだと商人の中で有名だが獣人を雇ってる当たり実は獣人好きだとランファンは密かに内心思っている。
「こちらも試してみるにゃ。ジュンマイダイギンジョウというお酒らしいにゃ」
「なんという透明な酒なんだ!」
一点の濁りもなく向こう側まで透き通り、まるで端から見ると水にしか見えない。
だけど、匂いは確かに酒精の匂いがする。どんな製造をすれば、こんな酒が出来上がるんだ。
ブランが商人になってかれこれ十数年、野菜や果物を育てる農民や魚介類を獲る漁師と付き合いしてきた。
その中で武器や防具を作製する職人と最も仲良くしてもらってる。冒険者が多い、この世界では最も武器や防具の需要が多い。
だが、職人は、武器や防具だけではない。その中には酒類も含まれる。酒造法は、職人により厳密に護られ外側に漏らされない。そう門外不出なのだ。
もちろんブランも酒造法は知らない。知らないが、こんな透き通った酒は見た事も聞いた事もない。
「匂いからして酒精なのは確かだが、これは美味しいのか?」
ブランには味の想像がまるで出来ない。色があれば、まだ味の想像は出来るというものの、この酒は水のように透明で想像が難しい。
「にゃふふふふ、この酒は米で出来ていると言ったら信じるにゃ?」
なに!米だと!確か東方の国々で食される穀物だと聞いた事がある。こちらでは食されないので扱った事はない。が、知識だけなら知ってる。
「なら、これは東方の国々で作られたのか?」
それなら納得がいく話だ。東方なら聞いた事がなくても仕方がない。
東方の国々に行くには船で海を渡る必要があり、それも1ヶ月掛かるらしい。
「いにゃ、そうではないのにゃ。我も昔に一度飲んだ事あるのにゃが、こんな透明ではにゃく、白濁していたにゃ。うーん、確か〝どぶろく〟だと言ったかにゃ?」
昔にランファンが飲んだ東方産の酒は、米の色をそのままに白く濁ってる酒らしい。
ランファンが口にした〝どぶろく〟は、造酒過程でもろみを濾過せずにそのまま飲む濁り酒の一種。米の甘さや華やかな香り、はじけるような口当たりが特徴な酒といえる。
「ほぉ、その酒精も味わってみたいが、今はこの酒精の味を見てみようじゃないか」
ゴクン
江戸切子に注いだ純米大吟醸を一口含んだ。その瞬間、鼻から透明な色から想像出来ないフルーティーな香りが抜け、味の方は米ならではの旨味とコクがあり、雑味はなくスッキリと味わいだ。
「エールとは違うな。コクがあり、それでいてスッキリした味わいだ。これが米の味なんか」
「驚くのも無理はにゃいにゃ。我も初めて飲んだ時は、それはもう驚いたにゃ」
相当気に入ったようで純米大吟醸を江戸切子のグラスに二杯目を注ぎ、グイッと一気に飲み干した。
「これはどんどん進むなぁ」
「今回はにゃいけど、ジュンマイダイギンジョウにぴったりにゃお摘みもあるみたいにゃよ」
「なにっ!」
これに合う摘まみだと!絶対に手に入れてやる。と、意気揚々に燃えるブラン。だが、ランファンの言葉により我に返った。
「カズトが言って事にゃ。カズトが本当に東方の出身にゃのか、我にも知らにゃい…………にゃが、この国…………否、この周辺の国々……………インブル大陸で、それらの酒とこのガラスの食器はカズトしか手に入れられにゃいにゃ」
ランファンの威圧感に圧倒されながらもブランは、テーブルの上に鎮座してる酒達を見詰めるのであった。




