SS8-6、スゥの1日~ライファンに土産を渡す~
「ビールジョッキという名前でして、売れますかね?」
「そうじゃにゃ………………うにゃ、土精族に売れそうにゃ。あの呑兵衛どもなら、確実に売れそうにゃ」
まぁ予想通りの解答だ。俺も土精族なら売れそうな気がしていた。種族一酒大好きな奴らだ。一人で軽々しく酒樽を丸ごと開けてしまうという。
「この2つを手に交渉をして来るにゃ」
『オネガイシマス』
「にゃ?!これは【念話】かにゃ?」
「えぇ、スゥは【念話】を使えます。ライファンが交渉してる内にスゥの【分身体】が密かに潜みますので、宜しくお願いします」
「任せるにゃ。我もブランは好かんヤツだと思っていたにゃ。ただ、ブローレ商会は、やり手の商会として尊敬するにゃ。だけど、ブランは嫌いにゃ」
嫌いって二回も言ったよ。俺は、直接会った事はないが、そんなに毛嫌いする程なのか。
でもまぁ、俺も命を狙われた身だけども、そこら辺のチンピラ相手じゃかすり傷もつかない。むしろ睡眠中なら反射で相手を殺しかねない。
「そうだ、これも持っていくと良い。グラスがあっても中身がなくては、魅力が半分になってしまう」
「うにゃ?!」
カズトか取り出しテーブルの上へ置いたのは、一升瓶に満杯に入ってる酒だ。
瓶の外側から見ても無色透明なのが良くハッキリと分かる。まるで水ではないかと疑いたくなるような透明度だ。
「こ、これは!ゴクン」
「運良く手に入ったのでな」
「こ、これもくれるのかにゃ?」
「あぁ持って行くと良い」
運良く手に入ったというのは自分の技術を隠すためのちょっとした嘘だ。ライファンが来るのに合わせ、【異世界通販】により手頃なのを仕入れていただけのこと。
「カズト以外誰も〝純米大吟醸〟を扱っていないのにゃ。本当に何処から仕入れているのにゃ?この瓶だけでも、相当な高値で売れる事間違いなしにゃ」
「企業秘密です」
一時的にパーティーを組んだ事のあるライファンに話しても良いと俺的には思ってるというより秘密にしてるという罪悪感を感じている。
カズトの【異世界通販】の技術を持ってる事を知ってるのは、魔王討伐したメンバーのみだ。
「こちらは、生ビールというエールです。もし、よろしければこちらもどうぞお召し上がりを」
日本酒の一種である純米大吟醸とは違い、エールの一種である生ビールの瓶は黒や茶色ぽい色をしており、何とも不味そうな色合いをしている。
「こんな汚い色をしてるガラスは、初めて見るにゃ!本当に美味しいにゃ」
「これは太陽の光を防ぐためであります。生ビールは、直射日光に当たりますと風味が落ちますから」
日本では当たり前の事だが、こちらの世界では理解出来ないのだろう。
芸術的に着色するなら兎も角、中身の品質を保つためだけにガラスに色を、それも黒っぽい色や茶色という一見不味そうに見える色にする発想が浮かばない。
そもそもガラスに着色する技術は、こちらでは確立していない。地球から見たなら色は着けてないが、完璧に透明じゃない何とも半端で杜撰なガラスだと言われるに違いない。
「ほぉ、こんな色にするのにそんな理由があるにゃか。どれどれ一杯頂こうかにゃ」
『スゥニモ』
「【分身体】でも味は分かるのか?」
『ホンタイトスゥハツナガッテル』
どうやら分かるらしい。
生ビールをライファンとスゥ【分身体】にジョッキを二杯注ぎ提供する。猫又族のライファンは豪快にゴクゴクと喉を鳴らし飲み干していく。
一方スゥ【分身体】は、体の一部を触手のように伸ばしジョッキの中へ突っ込んだ。
まるでスポンジのように中身が吸い込まれていく。スゥは、半透明なので生ビールが吸い込まれる様子が鮮明に観察出来中々面白い。
プハァ~
「これは、もうエールとは別物にゃ。これらをカズトの技術で手に入るにゃんて羨ましいにゃ」
ピクッ
「な、何の事ですか?」
「カズトは、もう少しポーカーフェイスを覚えた方が良いにゃ。我のようにベテランの商人だと、バレるにゃ」
そんなに顔に出てるだろうか?料理人の傍らお客の前にも出る事あるので、笑顔を欠かせないようにしてる。
少し動揺したのは認めよう。だが、笑顔から表情を一切変えてないと断言出来るという自負がある。
だけど、僅かな表情の変化をライファンは見逃さなかった。流石はベテランの商人であるライファンだ。お見逸れしたと言うしかない。
「ライファンには負けますね。えぇそうです、これは俺の技術で仕入れた品物です。言えるのは、ここまでです」
「お姉さんにゃら、全部教えてくれても」
酔ってるのか?妖艶に聞き出そうとするが、そんな手に引っ掛らない。飲んだとは別に生ビールを数本用意し、ライファンとスゥの【分身体】には早々と追い出した。




