SS8-5、スゥの1日~猫又の商人ライファンの協力~
「ご無沙汰してるにゃ」
「ライファン、良く来てくれた」
刺客の男どもを憲兵に突き出してから、数日が経ち猫又のライファンがカズトの頼みにより来てくれた。
相手が商人なら同じ商人をぶつけるべきだ。カズトも一応商人という事になってるが、商人のイロハは全くといってド素人である。
カズトは、あくまで自分の店を持ってる料理人であり、たまにクエストをこなす冒険者である。
商人ギルドに登録したのは、店を持つのに必要だったからである。商人ギルドに登録しないで、勝手に商売する事は犯罪になってしまうのだ。
「我を呼んだのは、どんにゃ用件だにゃ?」
「とある商人から、ちょっかいを受けまして」
先日あった事をライファンに話した。すると、毛を逆立ち怒りが頂点に達してるかのように顔が真っ赤になっている。話したカズト本人も怖がる程に。
「我が今から一捻りに潰して来るにゃ」
「ちょっと待て!ライファンを呼んだのは、別に潰して欲しいという訳ではない。ただ、同じ商人として忠告をしてほしいんだ」
もしも今後も俺とその周りにちょっかいを掛けるなら、容赦しないと。それ以外は、同じ商人として仲が良い隣人みたいな関係を築けたらと、それが一番の理想だ。
「カズトが、それで良いにゃら文句にゃいけどにゃ」
「行く前に、これをコッソリと持って行って欲しい」
カズトがライファンの前に出したのは、何やらお饅頭みたく真ん丸で半透明な物体だ。
「これは何にゃ?」
「これはスゥの【分身体】の一体だ。これを一緒に持って行って欲しい。これは完璧に透明なり、気配を遮断出来る。あちらを監視するには持ってこいだ」
スゥの【分身体】は、ライファンの肩にピョンと飛び乗り完璧に透明になった。
触れてる箇所が多少ヒンヤリと冷たく感じるだけで、端から見た限りではライファンの肩には何もないように見える。
「後は、これだな。取引の材料として遠慮なく使ってくれ。あちらさんに売っても構わないし、好きに使って構わない。俺からの依頼に対する報酬だ」
「こ、これは!新しいグラスかにゃ?!それも、こんにゃにたくさん」
ライファンの前へ並べたのは、こちらの世界で通称:カズトグラスと呼ばれるようになったグラスだ。もちろん、【異世界通販】で買った品物だ。
先日売った100円や200円のグラスが数万に化けたのだから、内心笑うしかない。仕入れ値は、ライファンにも言ってない。
そして今回取り出したのは、先日売ったグラスとは比べようがない程に綺羅ビラかしてる芸術性が高いグラスだ。
「こちらは江戸切子というグラスで、先日渡したグラスよりも大分高値になりますが、その分芸術性が高い品物になっております」
日本でも数百円の安物グラスとは比べようがない程に高い。一個数万単位で取り引きされる。
「おぉ、これはウットリする程キレイだにゃ。ガラスで青をどうやって出してるのにゃ?うにゃこれは、貴族の連中に高く売れそうだにゃ」
ライファンも江戸切子の美しさにメロメロのようだ。
「まだあります」
次に取り出したのは、ビールを注いで飲むビールジョッキである。でかくて重い迫力のあるジョッキを前にライファンを目を真ん丸にして驚いている。
「これは大きいにゃ。もしかして、エールを飲むためのグラスにゃ」
「正解です。しかも少し魔力を注ぐと、中のエールが冷えます。試して見ますか?」
たまに【異世界通販】で取り寄せた品物は、魔道具と化していたり、何らかの効果が付与されていたりする。
一品事ではなく、種類事であるので助かっている。食物系で凡そ7割、道具系で3割程が魔道具か付与されて取り寄せられる。
例をあげるならば、厨房で使用してる電化製品がそうだ。動力源が電気から魔力に代わってるだけで、使用方法や使用効果は地球で使う物と同じだ。
「おぉ本当にゃ。中のエールが冷えて」
ゴクゴク、ぷはぁー
「にゃぁー、エールが冷えると、こんにゃに美味しくにゃるとは初めての体験だにゃ」
冷蔵・冷凍技術が乏しいこの世界では、魚類を遠くに運搬する以外に物体を冷やすという発想はないに等しい。
だからなのか、エールや葡萄酒等の酒類は常温で飲むの一般的で常識だ。
だが、カズトはビールを冷やすと美味しい事を知ってる。だから、常温で飲むエールや葡萄酒の飲み方に抵抗があるし、自分の店では消して常温でなく冷やして出してる。
料理人として不味い物を出すなんて、どうしても許せない。やはり旨い料理や酒をお客様に提供し、それに喜びを見出だせるのが料理人の性といえよう。




