SS1-30、帝国の三勇者~リンカ、風の奥義を炸裂する~
何が起こった?ジャックには理解出来なかった。顎をアッパーで攻撃されるまでは理解出来る。
だけど、今の状況は何だ?何故動けない。腕や足はピクリとも動かせない。呼吸までも上手く吸う事が出来ない。
「二本目………………三本目……………これでラスト4本目」
リンカは跳ね上がり左腕を突き立てた。ジャックを中心に左腕の旋風が垂直で竜巻として走る。まるで竜巻の十字架だ。
そこから対角線になるようリンカは、また跳ね上がり斜め右から右足を突き出し、右足の旋風が消え竜巻が走る。
左側も同様で移動し、左足を突き出し竜巻を走らせる。これで合計四本の竜巻がジャックを中心に交差するように渦巻いている。
「これで決まったな」
「えぇ、あれからは抜け出せません」
まともに空気が吸えず身動きが一切取れない。それに加え、刃と化した竜巻が身体からまとわりついて離れない。
竜巻の刃でジャックの体は血塗れになるが自身の治癒力で随時回復するが、また血塗れになる繰り返しだ。
死ねない体を持つ者にとっては、中々味わえない地獄であろう。
「まだです。風の聖拳:カミカゼ奥義第二番【荒れ狂う怒嵐脚】」
【四風烈嵐陣】だけでも直にジャックの魔力が底につき、いずれ治癒力が失くなり回復が出来なくなるだろう。
だが、それだと時間が掛かる。よって、ジャックに追い討ちを掛けるよう更なる奥義を発動した。
数m離れてジャックの目の前に跳びねるとリンカ自身が高速回転を始めると、ジャックに向かって回転キックを新幹線並みの速度で喰らわした。
スタッ
「ふぅ、決まったのです」
クルクルと回転しながら体操選手みたく着地し、ポーズを取った。
何処から取り出したのか?模擬戦を観戦してた三人の手には、10点と書かれたプラカードが握られている。
一方のジャックは、リンカのキックにより竜巻から脱出出来たものの魔力を、ほぼ使い果たし目を回している。
「やったー、10点だぁー」
三人全員が10点と書かれてるプラカードを見てはしゃぎ、プロの体操選手も驚きの体操技を次々と披露するリンカ。
「これが何かは分からないが、渡されたから、ついノリで挙げてしまったよ」
「でも、ギルドマスターノリノリであったように見えましたけど」
「そりゃぁ、こういうのは参加してなんぼだ」
「分かってるじゃないか」
意気揚々とメグミとクラインが、肩を組みガッハハハハと笑い合ってる。
まるで酔っ払いのオジサン二人が、初対面でありながら仲良く飲んでるような、そんな雰囲気を醸し出している。
そんな事を言うと、俺は女だとメグミは反論するだろう。そして、言った奴に対してケンカを吹っ掛ける。それが二つ名:戦闘狂を持つメグミの常套手段だ。
「ゲホゲホ、俺はどれくらい寝ていた」
どうやら片隅で気絶していたジャックが目を覚ましたようだ。血塗れだが、あっちこっちにあった傷は、もうほぼ塞がっている。
「本当にタフなのです。まだ殺るのです?」
「いやいや、もうやらねぇよ。流石に死ぬ。魔力が、スッカラカンだ」
ドサッ
談笑してる四人のところにたどり着いた事で、糸でも切れたように、その場で崩れ落ちる。
大量も魔力も限界のようで、そのまま寝落ちしてしまった。
「こいつ寝てしまったぞ」
「リンカと殺り合ったんですもの。仕方ないですわ」
「これは中々起きないな」
「ここに置いて行くのです?」
ここは冒険者ギルドの敷地内。何時までもここに寝かせて置く訳にはいかない。
「はぁ~、しょうがない。ワタシが運んであげよう。ギルドの空いてる客室にでも寝かせるか」
魔法を使わない勇者三人には聞き取れないが、クラインは寝てるジャックを浮かせるために風魔法【不可侵の寝具】を詠唱し、ジャンクを浮かせ運ぶ算段だ。
寝心地は、ハンモックに揺られてる感触に似ているらしい。本当かどうかは、その上に寝た本人しか分からない。
「聞いた事のない魔法ですわね」
「そりゃぁそうだね。だって、ワタシが作製した魔法だしね。ワタシしか知らないはずだよ」
「えっ?それって凄い事なんじゃ」
元来の魔法なら詠唱を丸暗記し、その魔法に見合った魔力を所持していれば大抵使える。
無詠唱の場合は、イメージ修行が大事になってくる。どんな現象が起こるのか、イメージ出来ないと失敗する。
ただし、こちらの世界では科学が未発達のため中々イメージ出来ない者の方が圧倒的に多いらしい。
それで新しい魔法を作り出す事は、魔法言語の意味を理解し発言出来る事。そして、イメージがハッキリと浮かべられる事が重要となってくる。
魔法に適正がないと、魔法言語を発言する事が無理となってくるため、勇者三人には全然聞き取れていない。




