SS1-28、帝国の三勇者~リンカ、渾身の一撃を防いでみた~
無数のジャックが放った【空弾】をリンカは避ける素振りを見せずに、そのままその場で立ち尽くしたまま微動だにしない。
だけど、【空弾】が到着する瞬間にリンカは動き出した。
それも予想外な行動へと出た。防御する訳でもなく、回避する訳でもない。【空弾】を、ほぼ掴んだのだ。
「【掴み風】したのです」
「はっ?」
まさか鉛弾よりも重い空気の弾丸を、あの速度の中で掴んでしまうとは思いもしなかったようで、ジャックは口をあんぐりと開け呆けている。
「初見では驚きますわね。リンカの聖拳の形態変化の一つ、風の聖拳カミカゼの技術:【掴み風】。飛び道具だけではなく、物体がない炎や水までも掴んでしまう技術ですわね。本来は魔法破りのための技術なのですけど」
「くっくくくくく、アレをやられたらどんな魔法でさえ、無力だな」
「大規模な範囲系魔法は無理ですわよ」
技術の効果も強力だが、もっと驚くべきところはリンカの身体能力だろう。
いくら【掴み風】で掴めるとしても高速で飛ぶ魔法や【空弾】による空気の弾丸を掴むのは至難の業である。
それに気付けてるのは、ここに何名いるのか?もちのろんとしてココアとメグミには周知の事実だ。
「呆けてる場合ではありませんわよ。掴んだという事は放つ事も出来るってこと」
ココアの解説の言葉に「はっ!」と我に帰るジャック。自分の業がもしも反される又は同じ業を使用された場面を想定し、対処出来なくては何がAランクだと言われるのがオチだ。
「来い。それらを全部叩き落としてやる」
拳を強く握り締め、まるでボクシングのようなポーディングを取るジャック。
おそらく返された【空弾】を同様の力と速度の【空弾】で打ち消すつもりだ。
「それじゃぁ、行くのです。【放ち風】」
ブンと思いっきり振り被り前に向かって腕を振るインパクトと同時に掴んでいた【空弾】の弾丸を放した。
「うぉぉぉぉぉ、うおりゃうおりゃうおりゃうおりゃ」
最初に披露したように連続で【空弾】を使用しているジャックだが、一つだけ見落とした事がある。
それはリンカが放し返した【空弾】が予想以上に固さと速度を上げ自分のところへ帰って来た事だ。
ジャックが放った【空弾】が押し負けた。その結果、殆んどの【空弾】を、その身で受ける事になってしまった。
「ぐわっ」
急いで防御をするが間に合わず、土煙が晴れた時にはジャックは片膝を付き、数え切れない程の青アザが身体中に出来ていた。
ぺっ
「ぐっ、俺はまだやれるぜ」
口の中に溜まった血を吐き出し立ち上がる。
まるで間違い探しのようたが、倒れ込んだ時と比べ立ち上がった時の方が青アザや切り傷の量が減ってるように見える。
「強化魔法です?自然治癒力を強化したようです」
「へっ、俺自身理屈は分からねぇ。昔からの体質らしくてよ、体が傷付くと勝手に発動してしまうのよ」
技術は勝手に発動する部類もあるが、魔法は勝手に発動するものはない。
たまに強化魔法のあるあるで無意識下で使用していたと。ジャックもおそらくそれに当たる。
「こういうヤツが一番タフで面倒臭いな」
「我慢強ければ最後には勝つ事は、良くある王道的な冒険ファンタジーの主人公みたいですわよ」
「なんだ?リンカが負けるって言いたいのか?」
「いいえ、リンカが負けるはずはありませんわよ。ただ、相手がタフだと言いたいだけです。いずれ、あの回復能力もつきます」
話してる内にジャックは戦う前と何ら変わらない状態へと回復していた。
普通に回復魔法を掛けていては、ここまで回復するのに後十数分は掛かるだろう。
「あれで終わったらつまらないのです。さぁリンカを楽しめさせるのです」
「あぁ、一矢報いてやるさ。うぉぉぉぉぉ【風の正拳】」
「風属性が得意なのですか?」
風属性の魔力を宿したストレートパンチだけど、その破壊力はドラゴンの腹をぶち抜ける程に折り紙付きだ。
もしもガードをされてもノックバック効果付きで後退されてしまう。
「他の属性も覚えておいた方が良いのです。こういう風に対策されてしまうから。土の聖拳:ガイア」
リンカの指先から肘の手前まで黒や茶色等の暗い色をした鎧や鱗みたいな物で覆われた。
その腕は、まるで魔物でも最強種と云われるドラゴンを思わせるようだ。
ジャックの【風の正拳】を微動だにせずに片手で防いだ腕側に目が行きがちだが、良く見ると腕だけではなく足も膝手前まで腕同様変化していた。




