SS1-26、帝国の三勇者~リンカの挑戦者二人目~
「……………リンカのお嬢ちゃんに頼みがあってだな」
「リンカに?なにかな、なにかな?」
ポリポリと頭を掻くジャック。実は、ジャックは女性対する耐性が全くない。
パーティーメンバーは全員男性で、クエストを受付する時も全て他のメンバーに任せ、宿屋にチェックイン・アウトする時ですら他のメンバーに任せている。
他にももろもろとあって何年振りに今日女性と話をする。そのため、中々リンカを前に言葉が出ないでいる。
「………………あー、そのなんだ。俺とも戦ってくれないか?ウルとの戦いを見てたら俺も殺りたくなってな」
「その気持ち解るかも。リンカは何時でも良いよ?」
リンカは、ウルとの戦いは不完全燃焼気味で誰でも良いから戦ってみたい気分であった。
その時に、ちょうどジャックが声を掛けてくれた事により内心笑みが止まらない。ウルよりも楽しめるのだろうか、それだけしか頭にない。
「ここじゃなんだし、ここのギルドの地下に訓練所がある。そこで殺ろう」
「殺るのです。楽しみなのです」
三人は、ジャックの背後を着いて行き、受付のカウンターを通り過ぎた。どうやら、予め地下に行くと伝えてあったらしい。何も言われずに通り抜けられた。
「ここを個人で使えるのは、Bランク以上の特権の一つだ。まぁあまり知られてはいないがな」
「ふへぇー、あの鍛冶屋よりも広いな」
「流石は、冒険者ギルドという事ですわね」
「ですです、ここなら思いっきり殺れそう」
「ここの訓練所は、天井や壁に地面まで【不壊】の魔法が掛かってるらしい。だから、どんなに暴れても壊れない。壊れたところを見た事ないな」
こんな広さを【不壊】の魔法を維持するなんて、とんでもない偉業だ。
因みに
「数回しか会った事しかないが、ギルドマスターがこの魔法を維持してるらしい。はっきり言って化け物だよ」
「誰が化け物だって?」
「ぎ、ギルドマスター!」
ジャックの背後から気配や音も立てずに、ニュルッと上位森精族の男が現れた。
勇者三人も上位森精族の男が姿を現すまで気付きもしなかった。
「そちらのお嬢さん達は、例の勇者だね」
「えっ?勇者!」
「なんだい?知らなかったのかい?」
「ただ、SランクとSSランクの冒険者とだけ」
ギルドマスターの言葉に三人をジロジロと見渡す。
Sランク以上っていうのも中々目にする事がないのに、それに加え勇者と聞けば誰だってジャックのような反応をするに違いない。
「おっと、まだ自己紹介がまだだったね。ワタシは、冒険者ギルドガリウム支店ギルドマスターのクラインだ」
「このギルドマスター、強いのです」
「あぁ隙があるようで隙がないぜ」
「中にはクズのギルマスもいますが、ここのギルマスはちゃんとしてるようですね」
「お、おい!」
「プックスクス、噂通りのお嬢さん方のようだ。話によると、まだ帝国にいるようだが?」
ギロリと視線と共に威圧感が三人に降り注がれる。ビリビリと肌が焼けるような感触に襲われるが、こんなモノに耐えられないようじゃ勇者とは言わない。
それにタダ遣られぱなしも癪なので、リンカとメグミで威圧をはね除け、逆に遣り返した。
「成る程成る程、これが勇者の力ですか。ふむ、悪意はないし、帝国のスパイとかじゃなさそうだ」
「ふん、あんなクズな国に使われるよりは逃げるぜ」
「あの王の代で終わりと思いますわ」
「豚王なんて、クソ喰らえなのです」
「そこまで言われたら滑稽だ。帝国なら、先ず不敬罪で死刑だろうね」
クラインは笑いを堪えるのに必死だ。三人とも特に面白い事を言ってると自覚ない分、頭に???が浮かんでいる。
「どうやって逃げたしたのか是非とも聞きたいが、答える気はないだろうしね」
「あら?分かっていらっしゃるわね」
「これでもギルドマスターだよ?冒険者とは、自由に行動し自由に生活する。ただし、その自由に責任を持つ事だと、ワタシは思ってるのだよ。帝国に留まるのも逃げ出すのも君達の自由だ。それを咎める権利ば誰にもありはしないのだよ」
クラインがキラキラと輝く笑顔で冒険者の心得を抗弁垂れる中で、その笑顔に潜む邪悪な何かをリンカとココアは密かに感じ取っていた。
「それで、ここで何をするのかな?」
「あぁそうだ、俺とリンカのお嬢ちゃんで模擬戦をやろうかと」
「すまないね、ワタシが現れたばかりに」
去ると思いきや何処かから出したのか?壁際に椅子とテーブルをセッティングし、座って観戦する気まんまだ。




