SS1-25、帝国の三勇者~ウルの負け~
「可愛いのです。ナデナデと撫でて差し上げたいなのです」
「がるるぅぅぅぅ。うるせぇ、そんな事を言わせなくしてやる」
リンカは余裕のようで本音で言ってるのだが、結果的にウルを挑発してる形となっている。
リンカの頭には、もしも勝ったらナデナデと思いっきり撫でたいとしかなくなっている。
「ふん、そんな余裕面を潰してやるぜ」
リンカの前からウルが消えた。いや、消えたんじゃない。スピードが速過ぎて観客からでは、そう見えたに過ぎない。
だけど、リンカの目の端にはウルの姿は捉えられていた。だから、慌てずに冷静なままだ。直立不動のまま動かない。
「隙がアリアリだぜ」
リンカの死角であると確信し背中に向け鋭い爪を突き立てようとしたが、その数秒後には何故かウル自身が地面からおよそ10mの空中を舞っていた。
何故今宙にいるのか理解出来ぬまま、そのまま逆さまで落下していく。
「ここなのです。はぁぁぁぁ【空底掌】」
落下してきたウルに合わせ、右足から地面が陥没するまで踏み込み背中側から右手で掌打し吹き飛ばした。
「グハァッゲヘロブハァ」
一体何が起きたのか頭が追い付かないウルは、逆くの字に曲がりながら障壁の端まで転がりピクピクと痙攣してる。
「……………おい、見えたか?」
「いや、何が起きたのか解らねぇ」
「ウルが消えたと思ったら、もう吹き飛んでいた」
「何者なんだ?あの嬢ちゃんは?」
冒険者ギルドガリウム支店を拠点とする冒険者や野次馬に来ているガリウムの国民達の視線はリンカに注がれている。
それだけウルはガリウム内なら良い意味でも悪い意味でも有名な冒険者の一人である。
それを圧倒的な強さで倒されては注目するなと言われても無理な相談だ。
「し、勝者はリンカぁぁぁぁぁぁぁ!」
「当たり前の結果だぜ。なにせリンカはSSランクなのだから」
「「「「「何だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」」」
実況をしているメグミがリンカのランクを暴露してしまった。
ここの冒険者を含め野次馬として見に来ている国民達も驚きの顔を隠せないでいる。
それはそうだろう。見た目は華奢で小柄なリンカがSSランクの冒険者なんて誰が思う事だろう。
「くっははははは、道理で強い訳だ。おい、お前ら賭けは俺の勝ちで良いよな?」
「チッ、チックソぉぉぉぉぉぉ」
「くっ!払えば良いんだろ払えば」
「クエスト終わったばかりだというのについてねぇぜ」
賭けはジャックの一人勝ちで、賭けをやっていた者は実に悔しそうな表情でジャックに賭け金を渡していく。
お金がスッカラカンになり嘆く者やお通夜みたくトボトボと帰る者、白く魂が抜けそうな者等ただの決闘が大事となっていた。
「ぐっ……………俺は一体何を……………」
「おっ、目が覚めたか。お前は、リンカ嬢ちゃんに負けたんだよ。覚えてねぇか?」
「………………リンカ?」
「ほら、あそこにいるお嬢ちゃんだ」
カリオンが指差した方向を向くと、ココアとメグミと談笑してるリンカがいる。
ウルは思い出した。リンカに一撃も届かずに負けた事を。悔しい思いが内心から募るが、戦ってみて解った。自分よりも圧倒的に強者という事実を、どうにか受け止めた。
「そんなに落ち込むな。なにせリンカ嬢ちゃんは、SSランクなんだからな」
「はっ!SSランクって、店長何かの間違いじゃないのかよ」
「間違いねぇよ。それにあの一緒にいるお嬢ちゃん二人もSランクだ。三人とも化け物だ」
元Aランク冒険者のカリオンは、まだ現役でやってた頃は本気でSランクを目指していたものだ。
だが、いざSランクの戦闘を目にした時に絶望した。あまりの化け物ぷりに心がついていけずに折れてしまった。
だけど、そんなカリオンとは違い、あの戦いを見た後で化け物に挑む者がいた。
「なぁ、お嬢ちゃん……………リンカって言ったか?」
「うん?オジサン、だ~れ?」
ガクンとジャックが軽くショックを受けた。拠点にしてる地域限定となる傾向にあるが、Aランク冒険者だと、そこそこ有名になっていてもおかしくはない。
それに冒険者ギルドに隣接してる酒場で名前を連呼されていたにも関わらず、知らないと言われたのだ。そりゃぁ、ショックを受けてしまう。
「勇敢な有翼の獣のリーダーをやらせて貰ってるAランク冒険者のジャックだ」
ポン
「あぁ、ケンカを止めようとしてたオジサンなのです」
「そうそう、思い出して頂いてなによりだ」
「そして、泣き虫とも言われていたのです」
「それは思い出さなくても良いかな?」
リンカの泣き虫という言葉にグサッと心に矢が刺さったような、ジャックは精神的にダメージを負った。




