SS1-24、帝国の三勇者~ウルの獣人化~
「ケンカなら表で殺りな。テーブルを壊したら弁償させるよ」
「ま、マスター!」
この騒ぎに酒場の店主らしき男が出て来た。2mは優に超える大男で、がたいが良くそこら辺の冒険者よりも強く見える。
「彼は誰?聞く限り酒場の店主らしいけど?」
「はい、酒場の店主でして、元Aランク冒険者でもあるカリオン・リューエン様です」
元Aランクと聞き、カリオンをマジマジとココアは観察する。冒険者を引退してるとは思えない程に威圧感を感じる。
私達勇者三人を相手しても良い勝負をするのではないかと直感でそう思う。
「ケッ、興が冷めたぜ。命拾いしたな」
「なに?逃げるのです?これだから木偶の坊は、ダサいのです」
ブチン
「おい!命要らないようだな」
「やる気になったのです?なら、表へ出るのです」
一回矛を収めたはずのウルが再び拳を握り締め、冒険者ギルドの外へリンカと一緒に出て行った。
「おい、どっちに賭けるか?」
「そりゃぁ、ウルに賭けるだろう?」
「それでは賭けにならないぜ」
「ふん、俺は嬢ちゃんに賭ける」
「ジャックさん……………」
「ウルが勝った場合は、何でも奢ってやるよ。その代わりに、嬢ちゃんが勝った場合は、それ相応の物を貰おうか」
「「「「よし、その話乗った!」」」」
端から見たら体格差からリンカとウルのどちらが勝つと思うと問われれば10割近くウルと答えるだろう。
だけど、そう答えるのは経験が浅い冒険者や一般国民の浅はかな考えだ。
ジャックのように経験と実績を十分に積み重ねた者から見ると、リンカはウルの数十倍大きな存在見えてしょうがない。
はっきりと言ってジャック自ら冷や汗が密かに止まらず、顔に出さないように努める事に苦労していた。
場所を変えて、冒険者ギルドガリウム支店前で正にリンカとウルの決闘が開始されようとしていた。
冒険者だけではなく、周囲の国民達もまた何事かと野次馬にきている。
周囲の安全の配慮として数名の魔法使いが障壁を展開して安全策は万全だ。
「よぉ、降参するなら今だぜ」
「それはこっちの台詞です。相手の力量が分からないなんて………………バカなのです」
掌を上空へ向け「やれやれ」と首を横に振るリンカ。その様子を見たウルは、顔を真っ赤に染め上げ今にでも突進して来る勢いで地団駄を踏んでる。
「相手が降参するか気絶するまで。相手を再起不能か殺す事は禁止する。それでお互い良いか?」
「あぁ良いぜ」
「何時でもカモーンなのです」
審判を勤めるのは、酒場の店主であるカリオンだ。
元Aランク冒険者なら、この決闘の審判に相応しい。というより、カリオンかジャックしかリンカの拳は見えない。
よって、カリオンが審判をやる事になった。
「では、始め」
カリオンの号令で決闘が始まった。
あからさまに身長差が有りすぎて、まるで大人と子供だ。よって、賭けの倍率はリンカが15倍と大穴になってる。
『おっとー、リンカ選手いきなり駆け出した』
『リーチが短い分、一気に距離を詰める作戦だと思われます』
『ですが、これは速い速いぞ。数十mあった距離を一瞬でゼロにしてしまったー』
いつの間にか実況を開始してるココアとメグミ。机と椅子にマイクを用意しており、二人の実況に合わせ周囲の野次馬という観客が盛り上がってる。
『おっとー、ここでリンカ選手アッパーブローだぁー』
『回避が間に合わないウル選手は、顎を両腕でガード。だが、それをリンカ選手が弾き飛ばす』
弾丸みたいに飛んでくるリンカのアッパーブローに両腕のガードごと、ぶっ飛ばされ弧を描くように後ろへ背中から転倒した。
「ぐはっ!(なんて重い拳なんだ!あの華奢な体の何処から繰り出せるというのだ)」
「もう降参なのです?」
「バカを言え。まだまだこれからだ」
リンカの挑発に数秒待たず立ち上がったウル。先程のアッパーブローによりリンカを油断していたと理解した。
もう、油断などしない。自分を奮い立たせ本来の姿へと変貌させる。
『おっとー、これはどういう事だぁー』
『どうやら、ウル選手は獣人のようですね』
「トラ?」
「俺はヒョウだ。豹人族のウルだ」
ウルの頭上に獣耳が生え、お尻の上部にはクネクネと尻尾が付いている。
牙と爪も鋭くなり、腕から背中に掛けてヒョウ柄が煌めいている。どう見てもギラっと睨む猫特有の瞳が獲物を狩る別の意味のハンターへ成り果てたと言い表せている。




