SS1-22、帝国の三勇者~冒険者ギルドガリウム支店~
「じゃ、じゃぁ、直ぐに仕事終わらせるから待ってくれ。先に行くんじゃないよ」
いそいそと自分の鍛冶場に戻るルカールカ。どうやら一緒に行く事に決めたようだ。
ただし、着いて行く理由がリンカの実力からリンカの可愛さにメロメロなのが一番の理由とやはりカズトに会いたいのもあるだろう。
「おっ、リンカが戻ったようだな」
「リンカは、今回も物凄く可愛かったですね」
「うぅぅぅぅぅっ、それは忘れて」
リンカのシリーズ系である十二支シリーズの説明を前回より補足する。文字通り十二種類の動物に扮する技術だ。
技術によるが、そこまで身体的特徴が変わる事はない。だが、裏技術になると話は変わってくる。
強力な分、動物の耳や尻尾が生え一部毛皮に変化する。それだけなら、まだ可愛い方だ。全部ではないが、体そのものが変化する裏技術がある。まぁこれは、リンカの事例だ。
そもそも裏技術は、バグみたいなものなのだ。その技術を完璧に使いこなし極める事で、希に発現するらしい。
らしいというのは、実例が少なく全くといって言い程研究が進んでおらず分かってない。
「さてと、俺達も上がろう」
「カメラさえ、あればな」
「もしも、あの姿を撮影したら殺すよ?」
「写真がダメなら、ヌイグルミが欲しいですわ。リンカ、あなた縫い物が得意ですわよね?」
「得意だけどよ。デザインが壊滅的だぜ。誰かがデザインを考えてくれたら出来るかもな」
「もしも、作ったら壊すから」
強くなるためなら羞恥心を押し殺すつもりでいるリンカだが、実際にやってみると恥ずかしい。可愛い物好きだけど、それは他人がやるから楽しめるのであって、自分がやるのとは大違いだ。
この事が、もしカズトに知られたなら当分の間、旅に出るか又は引きこもるしかない。
「そんなに睨むなって。作らねぇから」
「本当に?」
「本当だって。俺がリンカの嫌がる事を今までしたか?」
メグミに言われ、数秒リンカとココアは今までの事を思い出していた。
「してる記憶しかないわね」
「してる記憶しかないのです」
「そういえば、そうだな。悪い悪い、だってよ。リンカをからかうと面白れぇたもんよ。それに、可愛いしな」
「それだけは同感ですね」
「さぁ、上がるのです」
可愛いと言われ、リンカの頬から首筋まで真っ赤に色付いてる。そのまま振り返らずに上の階へ上がる。今のままでは、二人の顔を合わせられない。
顔を今合わせたら照れてる事実がバレてしまう。バレれば、ココアは兎も角、メグミならからかうと安易に想像出来る。
「あれ?ルカールカさんは?」
上の階に戻ると、ゴンはいるけどルカールカの姿が見当たらない。その代わりに『カーンカーン』と甲高い音が鳴り響く。
「あぁ、奥に籠ってる。普通なら一週間掛かるであろう仕事を今日一晩掛けて仕上げるつもりだ」
「それ大丈夫なのか?」
ルカールカが無理をしないか、三人とも心配だ。鍛冶の事は素人な三人だが、刃物一つ作るのに1日では無理なのを知ってる。
日本でも量産品ならいざ知らず、職人が丹念込めて作る魂が籠ってる逸品は、一月掛かる物も珍しくない。
物によっては、年単位で予約を待たされる事もあるという。そういう逸品は、一生物で手入れをすれば死ぬまで持つものである。
「一回集中したルカールカは誰にも止められねぇさ。まぁその代わりに終わった途端ぶっ倒れるかもな。お嬢ちゃん達は、この国を見て回ったらどうだい?まだ全然回れてないだろ?俺が、ここは見てるからよ」
ゴンの言葉に甘え、ガリウム内を見て回る事にした。やはり一番気になるところは冒険者ギルドだ。冒険者である以上、その国その街での冒険者ギルドを立ち寄り確認したい。
というより、リンカ・ココア・メグミの三人は帝国ブレインズ内の冒険者ギルドにしか行った事がない。
なので、内心では三人とも物凄く楽しみなのである。
「あれじゃないかしら?」
ココアが指差す方向に立派な建物がある。看板にも『冒険者ギルドガリウム支店』と書いてある。
うん、間違いないらしい。
「よっしゃぁ、入ってみるか」
「何でテンション高いのですか?」
「そりゃぁ、おめぇ。どんな冒険者がいるか楽しみなんだよ」
「メグミの場合、ケンカしたくてウズウズしてる感じなの」
「そうですね。同感です」
リンカとココアも早く入りたくて顔に出さないが、内心楽しみでしょうがない。
ドアを開け、三人一斉に冒険者ギルドガリウム支店に足を一歩踏み込むのである。




