SS7-20、女婬夢族ジブリールの居場所~炎の聖槍グングリル~
「残念ながら、こんなんで殺られちゃSSランクを名乗れやしない。なれていないよ」
実質雷属性の次に速度があるとされる風の上位精霊による目に止まらぬ刺突の連続攻撃をヒラヒラと紙一重に回避する。
『ギャォォォォォォォォ』
「ふんっ」
風の上位精霊は確かに速いが、動きが単調で読みやすい。実戦をいくつも潜り抜けてきた猛者なら、安易に対応出来る。ただし、ドラゴンやリッチ等のSランク以上の魔物に限るがつく。
「クスクス、避けるだけじゃ勝てないわよ」
そう、《正義》の手元には得物がない。精霊を倒すには、属性魔法か属性が付与された武器に限る。普通の物理攻撃ではすり抜けてしまう。
即ち、攻撃する手立てがないに等しい。《正義》は、魔法が苦手だ。風の上位精霊を倒す程の火力を捻出出来ない。
逆にあっちから攻撃出来、それに加えて防御する手間も必要ないときた。こっちは、攻撃を一撃貰えば致命傷になりえる。
なら、どうすれば良いのか?その答えは簡単だ。
「ふぅ、ようやく時間になったな【聖武器創造:聖槍グングニル】」
作ってしまえば良い。
ただ単に【聖武器創造】の次の使用可能になるまで休憩時間が必要だっただけのこと。それで、単に回避し続けていた。
「なっ!炎の槍だと!炎までも使えるのというの!」
風の上位精霊が放つ風の槍をグングニルで受け止めた。上位精霊の風と《正義》の炎が混ざり合い、上位精霊の槍とグングニルを中心で天高く炎の竜巻を形成していた。
「ゴクン。こ、これがSランク同士の戦い」
自分もSランクに数えられてる事をミスティーナは頭から抜けていた。
だが、それは仕方ないこと。
自分と《正義》の戦いは、まるでお遊戯だと認識する。その上で、風の上位精霊と《正義》の戦闘は美しいと見惚れてしまう。
まるで、風の上位精霊と《正義》が一緒にダンスを踊ってるみたいだ。
「大分、魔力回復したかしら」
まだ体力的に怠い気分だが、動けなかった影響で魔力回復に専念出来た。
人間なら出来る者は少ないが、黒森精族なら大気や土、木々等の自然から魔力を体に取り込められる【魔力蓄積】が使える。
これにより、睡眠で回復するより圧倒的な速さで魔力が回復出来る。
「さぁ、風の上位精霊よ。受け取りなさい。【魔力譲渡】」
ミスティーナから風の上位精霊に風をスケッチブックに描いだような線が漂うように走る。
その線が風の上位精霊に辿り着くと、いくらか大きくなったような、それ以前にステータスがグーンと上昇したように見える。
『ギャォォォォォォォォ』
「これは、大分強くなったんじゃないか!」
風の上位精霊からの刺突が降り注ぐ度に《正義》は後ろへ後退していく。
本来なら風属性より炎属性の方が強い。そのはずなのに、物量で押され始めた。このままでは、ジリ貧で負けるまで時間の問題だ。
今は何とか受け流してるが、それが何時まで持つか。
「たくっ、少し本気を出すしかないじゃないか」
ギロッ
風の上位精霊に睨み付けると攻撃の雨が止んだ。これ以上、刺突しようにもガタガタと槍が震え進まない。まるで、《正義》の前に薄い障壁でも展開されたかのように槍が止まってる。
二人から数十m離れてるはずのミスティーナにもその様子が見て取られ、《正義》の瞳を見た途端、体の芯から震えが止まらなくなった。
ガタガタっ
い、嫌だ。こ、怖い。こ、ここにいたくない。あ、アレは今この場で殺すべき存在だ。
「何をやってるのよ。早くソイツを殺しなさい。魔力が足らなければ、くれてやるわ」
早く《正義》という存在を消したいために蓄積した魔力は微量だが、風の上位精霊に明け渡した。
その代わりにミスティーナは、またもやその場で意識はあるものの動けなくなった。魔力を蓄積する性質上、動くよりも動かない方が効率が良い。
動かない事は、自然と一体化となる事と同義であるが、生物である以上実際にやるとなると難しい。
これこそが人間が【魔力蓄積】が出来る者が少ない理由でもある。因みに《正義》も使えない。
「ギャォォォォォォォォギャルゥゥゥゥゥゥゥ」
ドカァァァァァァン
ミスティーナが更に魔力を与えた事で《正義》の睨みから解放されたようで目の前の《正義》へ槍が届いたかのように見えた。
だけど、《正義》が先程までいた地面を抉られているだけで数十m後方へ回避出来たようだ。
《正義》が先程まで自分がいた場所を一度見ると、そこは隕石が落下したようにクレーターが出来ており、《正義》じゃなかったら木っ端微塵に粉砕されていただろう。
次回は仕事の都合上、休みになります。
9月16日更新予定となります。




