114食目、プリン
「なら、こちらは如何でしょうか?」
カズトがアイテムボックスから取り出したのは、カップに入った〝プリン〟だ。魔法大国マーリンへ来る前に作り起きしておいたのだ。アイテムボックス内は時間経過しないので、冷えたままの状態だ。
プリンを受け止める平べったい皿も用意し、カップをひっくり返し黄色い物体がプルンプルンと登場する様を、ここにいる者全員の瞳を虜にして離さない。
「これはプリンというデザートです。卵をふんだんに使用してます。全員の分をご用意致しましたので、どうか舌鼓をなされてはと思います」
全員のプリンを皿に盛り配って行く。もちろん、ここにいる使用人の分も用意した。こういうのは全員で食べた方が美味しく感じるものだ。
「スプーンで掬って食べます。こういう風に…………見た目通りに軟らかいので、食べ易いかと」
カズトの見様見真似でプリンを掬って食べていく。使用人にも配ったからか態々毒味をさせず、そのままフレイ王とララ王妃を含め神樹の森フリーヘイムの王族全員が一斉にスプーンでプリンを掬い口に含んだ。
咀嚼せずとも、プリンを口に入れた瞬間に蕩けそのまま飲み込んだ。これまでに、こんなにプルンと軟らかく蕩けるような食べ物を食した事のない神樹の森フリーヘイムの王族一同は驚愕した。
驚愕した故に一口目にして食べる手が止まってしまっている。我を忘れ一口目の味を堪能してるようだ。全員が天井を向き、顔が蕩けてしまってる。
「天晴れだ。こんな美味なものを余は食べた事がない」
いち早く我に帰ったのはフレイ王。カズトは知らないが【森の気】にて無理矢理にでも我に帰ったようだ。あれ以上、蕩けた顔を━━━━醜態を王として他国の勇者の前で晒す訳にはいかないと判断したそうな。
まぁカズトが、この光景を他者に漏らす事は消してないのだが……………それを他国の王が知る由もないのだから仕方ないとえよう。
「この食べ物は〝プリン〟と言うたか?これが卵の味とは……………久方振りに堪能した。"剣の勇者"殿、礼を言う。ありがとう」
王自ら頭を垂れカズトに感謝の礼をした。王自ら頭を垂れるなど前代未聞だ。相手が王よりも立場が上でない限り、まずあり得ない光景だ。
王よりも立場の上の者だとすると、女神・神とその使徒位だろうか。まぁ取り敢えず前代未聞の光景だというのは確かだ。
「閣下、頭を上げて下さい。使用人もいる中、これはマズイと思います」
「済まない。そうであったな」
フレイ王は頭を上げるが、今だにプリンの美味しさに堪能してるようでフレイ王がカズトに頭を垂れた事を気付く者はいなかった。
「此度の晩餐会の料理に〝プリン〟とやらをご馳走してくれた礼をせねばな。"剣の勇者"殿、何か欲しい物はあるか?」
えっ?!そんな急に言われても………………緊張してるからか何が良いのか直ぐには思いつかない。
う~ん、何かないか?こう普段なら叶えられないもので、しかも欲張らない感じの良いもの………………!そうだ、アレで行こう。
「恐れながら申します。俺……………いえ、私に神樹の森フリーヘイムへの入国を許可して頂きませんでしょうか?」
「我が国にか?ふーむ、その理由を聞こうか?」
「はっ!神樹の森フリーヘイムには、この世とは思えない程に美味な野菜や果物が成ると聞きます。私は"剣の勇者"である同時に料理人でもあります。是非とも、神樹の森フリーヘイムへ足を伸ばし、その美味なる野菜や果物を自分の目により目利きをし料理したいと申します」
神樹の森フリーヘイムは、帝国ブレインズの鎖国と比べると人々の行き来はあるが、それでも神樹の森フリーヘイムの王・フレイ王が許可した者しか行き来は許されない。
もし許可が取れず無理矢理に侵入をしようにも【森の結界】に国全体が覆われてるため、出入り口を探すところか遭難する可能性がある。それで年数人の死者が出ている。死亡原因はほぼ餓死による行き倒れである。
「ふむ、条件が一つある」
「はっ!何でしょうか?」
「我が国で食材を採取したならば、その食材で余のために料理を献上する事。それが条件だ」
「あなたぁ~」
「父上」
「父様」
「何だ何だ?!余は"剣の勇者"殿に話してる最中であるぞ」
フレイ王にプリンの余韻に我を忘れてた三人が詰め寄ってる。どうやら我を忘れてる間も俺とフレイ王の話は聞こえいたようで、神樹の森フリーヘイムで採取した食材で作る俺の料理をフレイ王が独占しようと思ったらしい。
「私達にも食わせてくれますよね。まさか、あなただけ食べませんよね」
物凄いララ王妃の怒気にフレイ王も額から冷や汗がタラタラと溢れてる。もはや、王という威厳が失くなってしまってる。他国の王族でも女が強しという事か。




