109食目、湯葉の刺し身
魚料理として〝湯葉の刺し身〟を提供するけど、別に魚を使用してる訳ではなく、大豆から作れ魚ぽくて魚の代わりとして提供出来るものと考えたら〝湯葉の刺し身〟が思い付いたのだ。
別に刺し身という言葉だけで、思い付いた訳ではないぞ。そんな安易な考えではけしてないからな。
湯葉は作り方自体はそんなに難しくないが…………キレイに作るのが難しい。まさに職人芸と言っても過言ではない。
素人がやるとシワや泡が入り見た目が残念な事になり、売り物にならなくなる。俺は日本にいた頃、料理人の修行の一環で湯葉専門に作ってる会社に二週間程通いつめ、湯葉の技術を体に覚え込ませた。
【異世界通販】で買ってでも良いが、やはり自分で作った方が美味しく出来上がる。そこは勇者の補正だろうか?
「ふむ、こんなもんか」
温めた豆乳の表面に凝固した膜を細い棒状のもので掬い、洗濯物のように干すだけだ。上記で記したように、破かないようキレイに掬い上げる事がただただ難しい。
カズトが掬い上げた湯葉はシワと泡が一切なく、ポタポタと豆乳の雫が垂れ、後は乾くのを待つだけだ。このままでも美味しいが乾燥させると栄養と味が凝縮される。
それに豆乳の上部を掬ったものであるため、豆腐よりもヘルシーで栄養価が数倍高い。
「久し振りにやったが……………うん、我ながら上手くキレイに作れたもんだ」
一番茶や一番出汁と同じく、最初の一枚目を掬い取ったら残りの豆乳は棄てる。二枚以降は一枚目と比べ栄養価と味がすこぶる落ちるからだ。
新しく作るには、新しく豆乳を用意する必要がある。一般家庭で提供する時には二枚目以降でも良いかもしれないが、これは王族が食すものだ。妥協は許されない。乾燥した後は魚の刺し身みたく、薄く切り分け盛り付ければ完成だ。
食して貰う時には、冷奴と同じく醤油に浸けて食べて貰うつもりだ。
肉料理として提供する〝豆腐ハンバーグ〟も同様でただ単に肉ぽいかなとか安易に考えついたのではなく、肉を食べれない森精族にも肉ぽい食感や味わいを楽しんで頂けたらと思いメニューに加えたのだ。けして、安易な考えからではない。
それでは作り始めたいと思う。
豆腐をそぼろ状に細かくしていき、そこにキツネ色まで炒めたタマネギ、竹串で簡単に突き刺さるまで枝豆を入れコネコネと混ぜて行く。
味付けとして塩胡椒をするだけで良い。そもそも何もしなくても豆腐自体━━━━大豆自体がそのまま食べても美味しく味付けが必要ない程に。
下手に味付けをすると味がケンカしあって残念な結果になり得る。まぁシンプルが一番美味しいという事もあるもんだ。
最後に繋ぎとして片栗粉を投入し、粘り気を出てくるまでコネコネと捏ねる。これで焼いても崩れずらくなる。
焼いてる間にソースを作ろうと思う。先程、下手に味付けすると味がケンカすると言ったばかりと思われるが、俺は醤油をベースにしたソースを作るつもりだ。
豆腐と醤油、同じ大豆から作られたものだから………………これが合わないはずがない。
「うん、我ながら恐ろしい。ペロリ、旨い」
日本人が生み出した万能調味料━━━━醤油は日本人なら誰しも頬を緩ます旨さを持ってる。
外国に行き、その現地での料理を食べると何処か物足りなさを感じるらしい。醤油さえあればと思う事が何度も起こるらしく、何度も外国へ行かれる方は醤油は必需品になるんだとか。
醤油ソースは自由に掛けられるようドロップトレイに入れ、一緒にサーブする事にした。
サラダとして提供する〝豆腐サラダ〟は文字通りというか言葉通りに豆腐のサラダだ。
豆腐を一口大に切り分け、適当にというよりカズトの直感で野菜(レタス、ブロッコリー、大根、ニンジン等々)と海藻を盛り付け、サラダ用にアレンジした醤油ソースを掛けてあげれば出来上がりだ。
豆腐だけなら一色で殺風景で寂しく感じるが、カラフルな野菜と一緒に盛り付けると目で楽しめ味でも楽しめ、最後に食感を楽しめる。
メインを飾るのは〝稲荷寿司三種盛り〟である。言葉通りに稲荷寿司を三種類作る訳だが、肝心の油揚げを作るところから始める。
豆腐から水分を抜くため、板に重りを乗せギュッと押し潰す。一見、中身が飛び出ると思う人がいると思うが、そんな事はなく豆腐には弾力が結構あるので飛び出る心配はないのだ。
水分を出し終え1/10程までペッタンコになった豆腐をカズトが油揚げ用に調合した油に投入する。
豆腐がフックラと膨らみ油の表面へと上がって来たら出来上がりの合図だ。この揚げ立てのお揚げさんを、このままビールとともに食べたら最高に違いない。そう思うとヨダレが出てしまう気持ちになる。




