103食目、ファンタジーな大豆
後、一週間程で通常通りの更新頻度に戻れそうなので、もう少し不定期な更新が続きます。
シールに桶いっぱいに綺麗な水を入れて貰い本当なら半日(12時間程)大豆に水を吸わせるのだが、日本の大豆とは違い1時間余りで水を吸い込み、桶いっぱいに張った水が6割位減り上部にある大豆は顔を出している。
「スゴいな。ここまで早いとは(流石は異世界という事か)」
小粒だった大豆は水を吸い野球ボール程の大きさまでになっていた。日本の大豆でも、ここまで巨大にはならない。むしろ、異世界だからと納得しても良いが、こんなに大きくなると少し不気味だ。
見た目は兎も角はたして美味しいのか?が問題だ。カズトは勇気を出して水を吸った大豆を一口にパクリと口に入れた。
「これは!(美味しい)」
水を吸ってるはずなのに味は濃厚で甘く大豆独特の匂いが鼻から抜ける。下手したらスイカやメロン並み甘いかもしれない。それでいて、ちゃんと大豆の味がしっかりと前に押し出ている。
これならば、巨大な事に目を瞑れば世界一…………いや、宇宙一美味しい〝豆腐〟が出来る。
「ほぉほぉ、成る程!水を吸わせただけで、こんなに美味しくなるとは!"料理の勇者"殿さすがですな」
「どれどれ…………これは!私、豆嫌いだったけど…………これならば喰えるわ。むしろ、何個でも喰えるわ」
まだ、材料の状態で食ってそんな感想言われても逆に困ってしまう。
「いやいや、何を言ってるんだ!まだ材料の状態だろ。これから加工するんだから」
「「何?!これ以上美味しくなるの!」」
いやいや、シールは兎も角として料理長のボーロが驚いてどうするんだ!この先が思いやられる。
俺も流石にここまで大豆が水を吸って大きくなるとは思っていなかった。このままでは石臼に入れる事は出来ないので、包丁やトンカチで細かく砕いていく。
細かくする過程で吸った水が出ると思いきや全く出無かった。流石はファンタジーな大豆だなと無理矢理に納得する。
「この石臼に入れて刷り潰して行く。量が量だから時間が掛かるだろうが、夕餉には間に合うだろう」
「おい、お前達全員で取り掛かるのだ。今宵から各国の王達が来るのだ。忙しくなるぞ」
「それじゃぁ、私はお暇するわ。"剣の勇者"様、約束は忘れないようにね」
シールはウィンクすると厨房から去って行く。ここからは力仕事だし、シールの役目は取り敢えず終わったと自分で判断したのだろう。
流石に石臼1個では足りないので、追加で5個程設置した。ここからはマンパワーが必須でボーロの部下が無心で石臼を回している。機械で挽くより石臼の方が酸化はしない。そのお陰で味がまろやかに仕上がるのだ。
「挽いたものから鍋に入れてくれ」
大豆を挽いたものを〝呉〟と言い、その〝呉〟に水を入れながら煮ていく。泡が立つので、消泡剤として植物油を回し掛ける。
煮た〝呉〟を布に包み圧力を掛け圧縮して絞り出す。絞り出した液体が〝豆乳〟になる訳だ。これだけでも大豆より濃厚になり美味しい。女性にとっては美貌に良いと言われてる。
残りカスは〝オカラ〟と呼ばれ、一般的にゴミとして廃棄されて来たが、最近になりヘルシーで栄養豊富だと知られ菓子等の材料の座を手に入れた。
「ふぉ、大豆より匂いが凄まじいですな。匂いだけで美味しいと分かります」
「これだけでも飲む事出来ますが、まだ出来上がりではありません。むしろ、ここからが本番です」
豆乳に〝ニガリ〟と呼ばれる凝固剤を投入する。ニガリ自体を作るのは簡単だ。海水を煮詰めていき塩が出来る過程の副産物が〝ニガリ〟だ。
何の役に立つのか海水を出す魔法があるらしく、その魔法が得意な魔導師をシールから紹介してもらい海水を出して貰う。これで〝ニガリ〟が手に入る。
昔なら日本でもニガリは手に入ったらしいが、今現在の日本では手に入りにくい。それは海水が汚染されてるかもしれないから。実質禁止されている。
この理由により俺の【異世界通販】でも見つからなかった。
「さてとココからが難しいところだ」
"寄せ"という作業が地味で一番難しい。櫂で中心に寄せる作業をし、豆乳とニガリを反応させ凝固させる。地味だが職人の成せる技である。
これで失敗すると一からやり直しだ。失敗は許されない真剣勝負なのだ。
「よし、型に入れるぞ」
今回は二種類の豆腐を作ろうと思う。〝絹ごし豆腐〟と〝木綿豆腐〟だ。この差は豆乳の濃さと使う型が違う。
〝絹ごし豆腐〟の方が豆乳は濃くプリンみたいに型に入れるだけで良い。固まったら水に晒せば完成だ。
〝木綿豆腐〟の場合は、型の周りに水を出すための穴が開けられおり、寄せを行った豆乳を入れる前に布を敷き詰める。
その上へ豆乳を入れて行き、蓋を被せ重しを乗せて余計な水分を出してやる。これで完璧に固まったら完成だ。
名前の由来は布の跡が付く事から〝木綿豆腐〟と呼ばれるようになったらしい。豆腐店で修行中、店長に教わった受け売りだ。




