101食目、フルーイ・ニブル
活動報告でお伝えした通りに6月中は、更新は不定期になりますので、どうかご了承下さい
「そなたが"剣の勇者"殿でしょうか?私は神樹の森フリーヘイムの王…………フレイ陛下のご嫡男………第一王子のフルーイ・ニブルであります。アテナから"剣の勇者"殿の話を聞いて心からお会いしたいと思っていました」
フルーイ第一王子が俺に握手を求めてきた。俺の名前が他国まで知れ渡ってるとは、とても光栄の事だ。しかも第一王子という事は王太子で、次期国王のはずだ。
「フルーイ殿下とお会い出来、光栄であります」
俺は何の迷いもなくフルーイ第一王子の手を取り握手を交わした。こうして握手をすると分かる。外見からは分かりずらいが、鍛えられ王子の立場ながら一介の戦士だと。
「"剣の勇者"殿は料理人とも聞く。今日の晩餐会でご相伴におあずかり出来そうで、実に楽しみだ」
「未知の料理で驚かせてさしあげましょう」
「わっはははは、未知の料理と言うか。それは本当に楽しみだ」
フルーイ第一王子の高笑いが響く中、馬車から森精族の護衛らしき女性が降り立つ。その森精族とカズトが目が合った時、驚きの余り声が出ずパクパクと口を動かすしか出来なかった。
「カズト先輩久しぶりです」
森精族の護衛である女性がカズトに近寄り、カズトを知ってるかのようにお辞儀をしてきた。
服装は森精族だからか緑一色に統一され、動き易いようラフな格好で肌にピッタリと張り付いてる。そのせいか少し残念な胸の形が分かってしまう。それに腹とへそが少し見え隠れし、ハーフパンツという格好だ。
この女性こそ凛から聞いた勇者の一人であり"弓の勇者"と呼ばれる。弓の制度は100%で狙われたら、逃れる術がないとまで伝説を作ってる。
「久しぶりだ、アシュリー。話で聞いてたが、実際に見ると驚きを隠せないな。まさか、アシュリーが森精族になっていようとはな」
"弓の勇者"の名前はアシュリー・ミラー、日本でのカズトの後輩にあたり、日本にいた時からカズトの料理のファンの一人である。
何か理由をつけてはカズトの料理を食べに来たり、成人してからも店に定期的に通う程である。
「ワタシも先輩に会えて驚いてます。先輩に会えて━━━━」
グゥゥゥと可愛い腹の虫がアシュリーから聞こえてきた。感動の再開のはずなのに、なんか笑いが腹の底からこみ上げて来る。笑ってはダメなのに笑えずにはいられない。
「━━━━嬉しいです。カァァァァ…………い、今のは忘れてください」
「ぷっくくくく、そうかそうか。そんなに俺の料理が食いたいのか。たくさん食べて太ら━━━━」
「それ以上言うと…………射ぬきます」
顔面真っ赤にしながら、その手にはアシュリーの聖武器である聖弓ガーンディーバが握られており、セットされてる矢の先端をカズトに向け、何時でも発射出来る状態だ。
アシュリーの瞳は本気で射ぬくと物語っており、カズトも両手を挙げ白旗を上げる。カズトにも聖武器である聖剣エクスカリバーがあるが、この状態ではアシュリーの方が早い。
「俺が悪かった。だから、それを仕舞え」
「ふん、仕舞う条件として…………先輩の料理………楽しみにしてますから」
アシュリーは射る体勢から聖弓ガーンディーバーをアイテムボックスへ仕舞い姿勢を正す。まるで国に支える騎士そのものだ。
森精族に転生しただけあり、生前と比べると美人になっている。カズトが何故気づいたのかと言うと、外見ではなく雰囲気や何となく面影を感じ取ったからである。
「ぷっくすすすすあっははははは、まさか知り合いとは!あんなに感情を露にした彼女を見た事ないよ。これだけでも世界会議に来た甲斐があったもんだ」
「で、殿下!」
まさかのフルーイ殿下に笑われ普段の様子を暴露されるとは思わずヤカンが沸騰したかの如く顔面だけではなく、体全体が真っ赤に染まってる。
アシュリー本人からしたら穴があったら入りたい心境だろう。カズトも笑いそうになるが、アシュリーにキッと睨まれ我慢した。
「お兄様、そちらの方が"剣の勇者"様ですの?」
フルーイ第一王子の背後からピョコンと顔を出し、こちらの様子を伺う10歳くらいの女の子がいた。雰囲気が何処かフルーイ第一王子と似ており可愛らしい。
「あぁそうだよ。フゥがとてもお会いしたかった"剣の勇者"殿だ。ほら、恥ずかしがってないで挨拶しなさい」
「お兄様、余計な事を言わないでください!ゴホン、私はフレイ陛下のご息女……………第一王女のフゥ・ニブルで御座います。お見知り置きを」
フルーイ第一王子の妹か。森精族というのは美形揃いらしい。フルーイ第一王子は嫉妬する程のイケメンだし、フゥ第一王女は幼いながらもなかなかの可憐でいらっしゃる。
絶対に将来は美女になると確信が持てる。そんな彼女が勇者であるが一介の冒険者兼料理人である俺にカーテシで挨拶するというとんでもない光景が繰り広げられてる。
と、思ってるのはカズトだけで他の者は当たり前の事だと成り行きを見守ってる。
「妹はね、君の大ファンなのだよ。君の武勇伝や恋愛小説等々の本をベッドに潜った後に夜遅くまで読む程にね」
「お、おおおおお兄様!何故その事を!」
「あっははははは、バレてないと思ってたのかい?私に隠し事が出来るとでも?あっはははは、それは甘いって事だよ」
フゥ第一王女は狼狽えていても、その姿は変わらず可憐でそこに妖精がいるかのようだ。それにしても、フルーイ第一王子はお茶目な一面もあるようで親しみを持てそうだ。
「殿下、もうそろそろ向かいませんと閣下とお妃様がお待ちです」
「あぁ、そうだね。では、"剣の勇者"殿に精霊の御加護がありますように」
「お父様、私もこれで失礼致します」
「あっ、そうだ!"剣の勇者"殿、時間があれば私の妹に君の話をしてくれないかい?別に無理なら構わないが、妹を泣かす事だけはしないでくれよ。そうなったら解るね」
フルーイ第一王子が去り際に俺のところへ来ると肩を掴み、すごい形相で頼み事というか脅迫を言い出した。
それに捕まれてる肩がさっきから痛い。これは弓と魔法が得意としてる普段の森精族の腕力でない。どちらかと言うと娘を嫁に出す父親みたいな状態で、いわるゆ馬鹿力というものだ。
カズトは凄い勢いでコクンコクンと頷くしか出来なかった。だって、何もしてないのに超怖かったんだから。何か一言でも喋るものなら殺すと、フルーイ第一王子の表情から読み取れてしまったのだ。
四人が城内に入って行った事で、カズトや王様達も城門にいる理由がなくなり各自部屋へ戻る事にした。カズトは護衛として王様を部屋へ送り届けた。
その後、マーリン女王とアシュリーとフルーイ第一王子のご希望通りに城内にある調理場へと赴く。
「話は伺っております。私はマーリン城の料理長を宛がわれておりますボーロでございます」
まるで昔幼い頃に良く食べたお菓子みたいな名前だな。あのお菓子は顎の力が弱い子供でも簡単に食べれた。
「俺は"剣の勇者"であるカズトだ。グフィーラ王国の古都にて飲食店兼宿屋を経営している。会議が終わる間、ここを使わせて貰うのでよろしく」
「いえいえ、こちらこそ。"料理の勇者"様の調理が目の前で見れるなんて、感激しかありません」
料理の勇者とは俺に付けられた二つ名の一つだ。特にこの二つ名は料理に携わる者から尊敬の念を持って呼ばれてる。




