SS1-19、帝国の三勇者~拳VS槍:地下大訓練所編~
「これで、やっと自己紹介出来るな。コイツは見た通り土精族で、ルカールカ・グラン。一時的だが、カズトのパーティーに入っていた仲間だ」
「兄さんのパーティーに!」
「兄さんって、この子まさか!」
ルカールカも気づいたようで、ジロジロとリンカを頭の天辺から爪先まで舐め回すように見渡す。
「そうだ、カズトの妹でリンカという。後ろの二人はリンカのパーティーメンバーで、左のヒラヒラした服を着てるのがココアで」
「よろしくお願いしますわ。ニコリ」
「右の槍を持ってるヤツがメグミだ。三人ともカズトと同じ勇者だ」
「へへっ、ちっこいのに強そうだな」
「ちっこいは余計だよ。でもまぁ、リンカと言ったか?良く見ると、カズトに似ている」
カズトに似ていると言われリンカは、頬を桜色に染め照れている。カズトの事を良く言う者には、悪いヤツはいない。益々、ルカールカに好印象をリンカは抱いた。
「それで勇者三人を連れて来てどうしたんだ?ゴン」
「いやなに、この三人にパーティーへ誘われたんでな。カズトの所へ向かうみたいでな、お前もどうだろうと思ったのだ。久し振りにカズトへ会いたいのだろう?」
ゴンの誘いにルカールカの心臓が、ドクンと勢い良く鼓動がしたような感覚を覚えた。
だけど、それは土精族特有の感覚かもしれない。カズトが持つ聖剣を越える剣を打ちたい。その剣をカズトに使ってもらいたい。
「良かろう。だが、ちょっと待っていて欲しい。今取り掛かってる仕事があるのでな。それが完了次第一緒に行こうではないか」
「どのくらい掛かりますの?」
「3日程度だ」
その程度なら問題なく待っていられる。特に急ぐ旅でもない。軽くこの周辺のダンジョンでも探索していれば、直ぐに経つ。
「問題ないですね」
「ですです………………あっ、ついでにリンカの武器を何本か欲しいです。もう予備が心許ないです」
「リンカといったか、お前の装備を見ると近距離でしかも零距離系だろ?剣士よりも距離が近い。そんなヤツが剣を扱うとは思えねぇな」
ルカールカが言う通りリンカは普段剣は使わない。もちろん、槍も使わず拳と脚で大抵戦って来た。
だけど、とある技術でどうしても剣や槍が複数本必要なのだ。
「普通は、そう思うわな。だけど、とある技術で必要になるだわ。そうだぜ、一回見たくはないか?カズト以外の勇者の力をよ」
「リンカに許可もなく、メグミは安直過ぎですよ」
「リンカは良いですよ?それでそれで、納得するのであれば」
「確かにカズトのしか見た事ねぇな」
「あぁ、この機会なかなかないかもしれんぞ」
二人の目付きが変わった。まるで歴戦の猛者を相手にするような、そんな目付きに変わり周囲の空気も張り詰め、一般人ならいるだけで痛く感じ、この場から颯爽と逃げ出すに違いない。それか泡を吹いて倒れるかのどちらかだ。
「着いて来い。地下に広い空間があるのでな。そこでリンカの力を見せて貰おうか」
ルカールカの背中を追い掛けると、そこは東京ドームが一つ分収まる程の空間があった。
鍛冶屋の地下に、こんなに広い空間が拡がってるとは持ち主以外誰もいないだろう。
ゴンも知らなかったらしく、目を真ん丸にしてリンカ達三人と共に驚いて言葉が出ない。
「くっはははは、相当驚いてるようだな。これぞ、我が鍛冶屋が誇る地下大訓練所だぜ」
ここなら思う存分に剣や槍が振るえる。だがしかし、何故一介の鍛冶職人が、こんな場所を持ってるのだろうか?
普通なら冒険者ギルドか王国に仕える兵士達の訓練所として国が所有しててもおかしくないレベルだ。
ただ広いだけではなく、所々隠れられる遮蔽物と魔法や矢の試し打ちが出来る的が設置してある。
「これはスゴいですね」
「ですです、向こうまで行って戻って来るまで一分です」
「俺なら、その半分でやれるぜ」
「なら、勝負します?」
「良いぜ。負けた方は、ごはん驕りな」
もうリンカとメグミの二人は、勝負する気まんまで陸上選手がやるようにスタートの姿勢を取る。
勝負事になると止まらない二人を見てココアはため息を漏らすが、いつもの事なのでスターターの役を買って出た。まだ戦闘にならないだけ、いつもよりマシだと思っている。
「よーい……………」
ドン
「風の聖拳カミカゼ【風羽根靴】」
「あっ!ずりぃー」
「誰も技術を使ったらダメと言ってないです」
「なら、俺も使うぜ。怠惰の」
「メグミは、ソレを使った時点で失格とします」
「なんだよ、それ」
メグミのシリーズ系の技術は、どれもリスクを負うモノばかりで、こんな事で使うのはバカがする事だ。
それに使ったら後々面倒くさい事になるのは目に見えてるからココアは止めた。




