SS1-16、帝国の三勇者~元勇者パーティーメンバー:ゴンと会う~
「ふぅ、この岩魚は旨いな」
「でもでも、兄さんの方が美味しいです」
「ぷっくくくく、それを言ったらお仕舞いだな」
「二人とも声が大き過ぎです。ここの店主に聞こえるではありませんか」
リンカとメグミを注意するココア。
注意したココアも心の奥底では、カズトの作る料理の方が天変地異が起こらないと越えられない位に差があるとヒドイ暴言を吐いていた。
「ガッハハハハ、そこのお嬢ちゃん達の言う通りだな。久し振りにカズトの料理が食いたいぜ」
今、カズト!カズトって言った!
隣の席からカズトという名前が確かに聞こえた。聞こえたのは、リンカだけでなく、メグミとココアも聞こえたようで隣の席を見る。
「オジさんオジさん、今カズトって言った?」
一目散にカズトと口にした筋骨粒々で背丈程ある両手斧を装備してる男に食って掛かった。
メグミとココアが止めようにも気付く前に男の元へいた。
「急にすいません」
「リンカ失礼だぞ」
「でもでも、兄さんの知り合いかもしれないよ」
「ガッハハハハ、元気のええ娘っ子だな。こんな事で迷惑と思っていたら、男が廃れるってもんだぜ。そうだ、自己紹介がまだだったな。俺の名前はゴン、しがない冒険者さ」
リンカの失礼な態度に笑って許す筋骨粒々な男の名前は、かつて剣の勇者であるカズトとパーティーを組み魔王を倒した一人であるゴンだ。
その名前を聞き、目を丸くし驚いたのはココアだった。その名前に聞き覚えがあったのだ。
「えっ!そ、その名前って魔王を倒したという勇者パーティーメンバーの一人じゃない!」
「「………………!!」」
「まぁ、そうだな」
ココアが叫ぶとリンカとメグミは口をあんぐりと開けたまま固まった。一方のゴンは、照れてるように頭をガシガシと掻いている。
「まぁ、なんだ……………ここで話したら騒ぎになりそうだ。まだ部屋は取ってないんだろう?この宿屋で俺も泊まってるからな。どうだ、一回俺の部屋で話さないか?」
リンカ・ココア・メグミの三人は、ゴンが指摘されるまで周囲の状況に気付きもしなかった。
ゴンの言う通りに周囲の客が、ガヤガヤとこちらを見て話してるのが見て取れる。
場所を移し、2Fにあるゴンの部屋へと四人は来ていた。
「何もない部屋だが、適当に座ってくれや」
「その前に掛けておきましょう。【音のない世界】、これで外に音漏れはしません」
「ほぉ、便利なもん持ってるじゃないか。さて、下で言った通りに魔王を倒した勇者パーティーに俺も参加していた」
「その勇者の名前って」
ゴクンと無意識にリンカを始めココアとメグミも緊張からか、唾を飲み込んだ。
「あぁ、カズトだ。お嬢ちゃん達がカズトの敵なら俺は容赦はしないぜ」
「「「……………!!」」」
肌がビリビリと痺れる程にゴンから殺気が襲って来る。それに部屋の床板や窓ガラスまでもが、ゴンが放つ殺気によって揺れてる。
「オジさんオジさん、やるね」
「……………!!」
お返しと言わんばかりに、リンカも殺気を放ちゴンの殺気を相殺する。いや、むしろリンカの殺気が押してる。
パンパン
「はいはい、二人ともストップ!このままでは、宿屋に被害が出てしまいます。先ずは話し合いからですよ」
「おっさん、後で殺ろうぜ。こんな殺気を受けたら殺りたくなってきたぜ」
「メグミは黙ってなさい。話が進まないから」
ココアの静止にリンカとゴンの殺気による押し合いは中断された。ココアが止めなかったら、本当に宿屋が潰れていた。
一方のメグミは早くゴンと戦いたくて、瞳がキラキラと無邪気な子供のように輝き、ウズウズと体が揺れてる。
「ゴンさんも人が悪いですね。私達を試したのでしょう?」
「グッハハハハッ、悪い悪い。本当にカズトに害を為すなら殺すと思っていたが、違ったようだな」
今まで殺気を放っていた人物だとは思えない程に高笑いするゴン。
「それにしても、そこのちっこい嬢ちゃんはやるな。俺の殺気を押し返すとか中々出来るもんじゃないぜ」
「楽勝だったよ?」
「言うねぇ。後ろのお嬢ちゃん二人も相当強いだろ?一体何者なんだ?カズトの事も知ってるしよ」
椅子の背凭れから少し前屈みになり膝を太ももの上に乗せ、両手を顎の前で組みながら、ギラリと睨むようゴンは三人に質問をした。
一見華奢な風貌に見えるリンカ・ココア・メグミの三人から強者しか感じ取れぬ何かをゴンは感じ取っていた。だから、聞いて置かねばならない。
目の前の三人が何者なのかを。




