SS1-14、帝国の三勇者~決着&忘れられたメグミ~
リンカの回避とココアの捕まえる攻防にも終わりの時間が近づいてきてる。もうそろそろ【音のない世界】の終了時間だ。
なのに、リンカを捕まえる気がしない。何処から攻撃をしてくるかが分かってるかのように回避される。
旗から見たら速すぎて何が何だか理解が追い付かない。おそらく最低でもAランクの冒険者でないと、目が追い付かない。
(ただ捕まえるだけなのに、何で掠りもしないの?!)
地球では、ただ遠くから眺めていただけだが、こっちに来てからずっと近くで細かな動作やクセに至るまで観察し研究してきた。
そのはずなのに、近くにいるようでこんなに遠くに感じるなんて思わなかった。
こんな遠いはずはないと、ココアは自分に言い聞かせながらリンカを捕まえようとするが時間が来てしまった。
【音のない世界】が切れ周囲に音が戻って行く。風の音、小鳥の囀り、木々が揺れる音、心臓の音等々次々に戻って来るのが耳に感じる。
「ハァハァ、時間切れ。ワタシの負けよ。何で捕まらないのよ。本当に悔しい」
時間切れで、その場に大の字で地面にココアは寝転がった。リンカを捕まえるだけに技術を使い過ぎて流石に疲れた。
一方のリンカは、呼吸を乱せずに平然と疲れた様子が見受けられない。
「まだまだ修行が足らないです。それに呆気なく負けを認めたのです」
「ワタシの専売特許である〝音〟を使ってのこの作戦が通用しなかった時点でワタシの負けよ。悔しい、何で勝てないのよ」
「それは経験の差?」
リンカは、今まで積み上げて来た武術の経験から、まだココアは己れに宿った勇者の技術を使いこなせてないと考えている。
もしも、完璧というよりもっと工夫を、広い目で技術を使用出来るようになれば、ココアは更に上を目指す事が出来るはずなのに勿体無いとリンカは感じている。
リンカの憶測になるが、ココアの技術は勇者一遠距離攻撃が可能な能力であり且つ目に見えず耳に聞こえない不可視な攻撃が可能のはずだと。
それは誰にも気づかれずに相手を知らず知らずに殺す事が可能のはずだ。ただ、その危険性にココア自身気づいていない。
いや、ココアの頭の回転の速さで気付かぬはずはない。頭の何処かで気付いてはいるが無意識に頭の隅へと追いやってしまってる。
ココアは表情には出さないが、リンカに尊敬の念を抱いており、無意識でリンカの戦い方を真似している。
リンカの真似をしようにも普通なら無理だ。だけども、今まで熱心に研究してきた成果と音の勇者による技術が、それを可能としている。
しかし、音の勇者の本来の戦い方は相手の攻撃範囲外から音という見えない武器により攻撃する事と声により相手を洗脳する事が本当の戦い方だとリンカは思ってるがココアには教えない。
洗脳の力には、流石にココアも気付いてるが完璧ではない。まだ時間は掛かるし、戦闘では無防備になるから仲間が近くにいないと中々使い処が難しい。
因みに帝国から脱出する際に使用したのも洗脳だ。帝国全体を覆う程の洗脳なので、流石に数年は掛かった。
戦い方というのは自分で発見しないと意味がない。もしも、この壁を乗り越えられたらココアは、リンカよりも怖くなるかもしれない。
「そういえば、メグミは?」
「あっ!忘れてた」
戦いが楽し過ぎて二人ともメグミという存在がいる事を、すっかり頭から抜け落ちていた。
類は友を呼ぶというが、この二人もメグミ程でないにしろ、相当な戦闘狂かもしれない。
「あそこに転がってる」
メグミを指し樽や酒ビンみたく表現するリンカ。まだ気絶してるようで白眼を向いてる。
「リンカはメグミを運んで、ワタシは魔刀と盗賊の頭を回収致しますわね」
「ですです、分かったのです」
リンカは、トテトテとメグミに近寄りヨイッショと背中に背負った。まるで、姉が妹に背負われてる風に見える。
一方のココアというと出来る限り魔刀の破片を出来る限り集め袋にまとめて入れた。
柄を持つのに少し躊躇したが、刀身が粉々に砕かれた事により完璧に壊れたようで、柄に触ってもウンともスンとも言わない。
盗賊の頭は、泡を吹いて倒れてる。気が付いて暴れても面倒なのでロープで肩から足下まで雁字搦めにした。これでよっぽどの事がない限り抜け出せないはずだ。
落とさないよう肩に背負った。盗賊なので多少乱暴に扱っても問題ない。これで魔刀と盗賊の頭を鉱石の洞窟ガリウムにある冒険者ギルドや近衛兵に引き渡せば、いくらかお金が入るだろう。
「こっちは準備出来たわよ」
「よっこらしょ、リンカも大丈夫です」
今から徒歩で鉱石の洞窟ガリウムまでは、およそ日が落ち始め当たりに着くはずだ。久々の宿に泊まれると考えると、足下が軽くなる。




