SS1-13、帝国の三勇者~リンカとココアの鬼ごっこ~
微かにココアが動く際に生じる風の流れの微々たる変化をリンカは感じ取る事が出来た。
一直線にココへココアが向かって来てる。まだ直視出来ないが、風の流れと気配から確実に自分へと向かって来てる。
いくら武術を極めようとも気配を完璧に消す領域に達する事は困難である。リンカでさえ、気配を小さく出来ても消す事は出来ない。
その領域に達する事が出来てる者は、おそらく指の数で事足りる。その域に達する事が出来るなら最早、神の領域の一つと数えても差し支えない。
そんな訳でリンカでさえ、無理な事をココアには到底無理だ。ただ、音を消す作戦に関してはリンカは感心している。
(相手が悪い。いくら音を消しても、気配を消せないと意味がない…………………もうそろそろ来るかな?)
来た!
音速という視認出来るか出来ないかのギリギリの速度でココアは、リンカの腕を掴もうとするが、フイッとリンカは避け空振りしてしまった。
これで勝負を決めようとココアは思っていたらしく、速度の力加減を見誤ってしまいリンカを追い抜く形で数m先の距離で土煙をあげながら着地した。
(やはり一筋縄では、いけませんわね)
土煙が晴れお互いの姿を視認出来た。奇襲なら、まだココアに勝ち目はあったものの正面から行くなら勝ち目はほぼゼロに近くなってしまう。
音を消してからの音速を活かした超高速による物取りなら幾分か勝機を見出だせると考察していたが、どうやら誤りだったと認識を改める必要があると考え直した。
(リンカを研究もとい観察をしてきたつもりでいたのですけど、まだまだでしたわね)
(危ない危ない。これで完璧に気配も消されたら、負けるかも?)
お互いにジリジリと弧を描くように隙を伺いながら距離を詰める。一瞬の隙が命取りとなる。
(だけど、音速で動ける分こちらの方が有利ですわ)
【音のない世界】を使ってるせいで、ココア自身も歌操作による音の攻撃や歌によるバフ・デバフを能える事は出来ないが、別に捕まえるだけで攻撃する訳でない。なので、問題ない。
【音速移動】は普通に使用出来る。その他にも音は言い換えれば空気が振動したものだ。
つまり、音を感じないだけで振動を伝える事は出来る。この二種類の技術を使用すれば、良い勝負を出来るかもしれない。と、思ったのが間違いの始まりであった。
(逆に近くに来てくれて………………ラッキーかも?)
リンカの技術は、ほぼ近距離のものばかりで相手が遠くにいては話にならない。むしろ、ココアから近寄って来てくれた事に感謝しかない。
(このままではジリ貧ですわね。私の【音のない世界】の残り時間が差し迫ってますし、一気に勝負を仕掛けますか)
先に仕掛けたのはココアだ。リスクを出来るだけ少なくするため【音のない世界】の範囲と時間帯を限りなく少なくしてる。
その影響で、残り時間は約10分を切った。また距離を取って奇襲を狙うのも手だが、リンカはそれを許さないだろう。
一回リンカの目の前に出てしまったのが運のつきである。着かず離れずで一定の距離を保ちながら、ココアはリンカを引き剥がせないでいる。
リンカを掴もうと近寄れば離れるし、逆に距離を置こうとすれば近寄って来ては一定の距離を保たれている。これぞ、地球にいた頃に培った武術の技術の一つだ。
基本的な技法だが、実戦でやるとなると中々難しい。常に回避と攻撃出来る間合いを保つのは、よっぽど集中力を維持出来ないと素人には到底無理だ。
(な、何で捕まらないですの!まるで近くにいるはずですのに、遠くにいる感覚ですわ)
ココアの掌どころか指先にもリンカの体に掠りもしない。と、思ってるのはココアだけ。
実際のところは速度が速度なので、何回か危ない箇所がいくつかあった。でも、リンカは持ち前の技法で回避するところは避け、回避出来ないと判断した箇所は川の流れのようにいなしてる。
つまり、ココアの腕とかに手の甲を然り気無く当て外側へと誘導させ当たらないようにしてる訳だ。
それも勇者になってから備わった技術ではなく、地球産だ。これをココアが知ったら落ち込む事だろう。
ただ、勇者になってから備わったステータスによるところも大きい。視力は地球にいた頃よりも数倍良く気配も敏感に感じ取る事が出来ている。
そんな訳で異世界と地球の両方の技術を使用してるリンカには、遠く及ばないのも道理というもの。
ココアも地球でのアイドル活動による歌が上手いのは、自前だ。だけど、それは支援の話になる。バフ・デバフを掛ける際に歌を唄い相手又は味方に掛ける訳だ。その際に歌が上手くないと意味ないらしい。
逆にココア自身が戦闘を行うとなると、100%勇者になった際に備わったものになる。
リンカみたいに地球での技法も使用して戦う勇者は、まずいない。




