95食目、カズトVS杖の勇者その2
カズトは水の聖剣:ウンディーネの柄を逆さに持ち、そのまま垂直に落下させた。
落下したウンディーネは地面に吸い込まれる如く消え、その代わりにカズトの足元から尋常ではない量の水が空に届くと言わんばかりに吹き出した。
「水の聖剣:ウンディーネ………奥義発動!【水の妖精】」
噴水のように吹き出てる大量の水から出て来た人物と言ったら良いのか?人の形態は取ってはいるものの、人とはかけ離れていたのだ。
その姿は半透明で向こうの景色が見える程透けている。男か女なのか判別不可能で、ちゃんと言葉が通じるのか怪しい。まるで宇宙人やカズトの店で働いてるスゥに似てる容姿だ。
「ふむ、久しぶりにやってみたが上手くいったようだ」
久しぶりに、この技術を使用したもんだから自分の体を動かし調子を見る。背丈も変化しており、歩行・走行等々慣れてなければ時々転んでしまう。
「あなた本当にカズト?何か可愛い!抱き締めても良い?うっへへへへ」
「「私も」」
「模擬戦が終わったら、いくらでも焼くなり煮るなり好きにしても良いから。さぁ、戦いの続きを」
「「「約束ですよ」」」
何でこう女性って可愛い物を好きなのだろうか?カズトはパティシエという顔もあるので、可愛い物を作るに関しては得意だ。
ただし、作るのと愛でるのは別物だ。大の男が可愛い物好きだったなら過半数で引くだろう。それと同じだ。
「それじゃぁ、再開だ。先手必勝【燃える水の刃】」
「えっ!ちょっ、ちょっと待って!が、ガソリン!」
今現在の瑠璃の体は炎そのものだ。そこにガソリンなんか放てば、どうなるか?瑠璃自身にも理解出来たようで、回避しようとするが………もう遅い。
炎自体は瑠璃の周辺しかないが、その熱は違う。ガソリンという液体は、炎が無くても温度が上がれば自動的に発火し爆発する。
瑠璃に到着する前に熱が急激に上がり、発火→爆発による爆風が瑠璃を襲う。
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
爆風の衝撃によるダメージは幾らかあったが、炎の聖杖:ファイアリィーを究極に高めた姿が【炎龍の紅衣】━━━瑠璃の今の姿だ。
それ故に些細なダメージで済んだが、その代わりとして爆煙が辺りに立ち込め視界が悪くなる。
「くっ!まさかガソリンを使って来るなんて。私が【炎龍の紅衣】を使ってなかったら大ケガしてじゃないの!マジでビビったじゃないの」
こちらの世界では、存在せぬか発見されてないかは不明だがガソリンという液体は無色透明(ただし、地球では法律上オレンジに着色している)で独特な匂いがする。遠くから見たら水と間違えても仕方ない。
レイラやニーニエには、魔法のぶつかり合いで爆発が起こったと思ってる。化学という言葉がないのだがら、しょうがない。
「こんな煙なんて風の聖杖…………テンペラに………変え…………」
瑠璃の視界がグルンと回り足元がフラフラと立ってるのがやっとである事に気付き、呂律が回らなくなり意識が朦朧となっていく。
(何が起こってるの?!もぅ、ダメ!炎龍の紅衣を維持出来ない)
自分自身の体に何が起こってるのか理解出来ず、炎龍の紅衣を解除してしまう。
息が思うように出来なくなる程息苦しく、ついには膝を地面に尽いた。それに加え、両腕や両足には爛れたような火傷が診られた。
火の聖杖:ファイアリィーにしてる状態の瑠璃には火属性の耐性が限り無く高いため、本来は火傷なんて起こるはずがない。それなのに火傷が起こった原因は"火"以外の要因が考えられる。
「やっと効いたか。それは一種の毒ガスだ。ガソリンの爆風と同時に仕込んだ。もちろん、ガソリンは囮だ」
瑠璃には理解出来ない。いや、理解は出来てるが頭が追い付かない。あの爆風が囮とは考えたくない。
瑠璃が知ってるカズトは、料理バカで常に料理の事しか考えてない子であった。多少は武道を習ってる事は知ってたが、瑠璃の中のカズトは、料理バカで可愛くて愛しい男である。
それなのに、ガソリンとか毒ガスを攻撃手段として使用するのんて考えたくなかったのだ。
「昔から疑問に思ってたが水属性は治癒にも使えるのに、何故その逆の"毒"を使わないのかと。薬と毒は紙一重と良く言うのにな」
こちらの世界の常識では、水属性の魔法や技術は攻撃が少し出来る程度の回復役として見られて来た。だから、毒を作りジワジワと攻めるという発想はうまれて来ない。
「今の俺は【水の精霊】の第三形態【毒の水】だ。様々な毒を造り出す事が出来る。今の俺に抱き付いたら火傷じゃ済まないぜ」
カズトのキザなセリフを最後に瑠璃の意識は途切れた。




