92食目、魔法大国マーリンに到着
魔術師風の衛兵に案内された先には如何にもこれでもかって位に装飾が施された扉がある。この先が謁見の間なのだろう。
「女王様は扉の向こうでお待ちです。私はここまでとなります。扉の前で待機しておりますので、何かありましたらお声をお掛けくださいませ」
どんな仕組みかは分からぬが、カズト達が近付くと扉が自動に開いた。地球出身のカズトは特に驚きはしない。
初めての者が、この扉の仕掛けを見ると例外なく驚愕するらしい。
「待っていたわよ、グフィーラ王。相変わらず肥ってるのね」
「傲慢な態度は相変わらずじゃのぅ、マーリン女王」
お互いに火花を散らすグフィーラ王とマーリン女王。
だけど、カズトは目を見張った。女王なのに、まるで下着に近い衣装を着てるのだ。その豊満な胸を隠し切れず谷間が大胆に主張している。
下半身はパレオを装着され、パレオの隙間からチラチラと下着が見え隠れする。
「噂には聞いていたけど、この二人は元々同じ冒険者パーティーを組んでいたらしいわ。その時からの仲みたい」
つまり、腐れ縁ってヤツか?どこにでもいるものだな、俺の故郷・日本でも腐れ縁がいた。あっちが勝手にライバル視してるだけで、俺的には仲良かったと自負してる。
「「誰が仲良しなのよ(じゃ)」」
俺にコソコソとレイラが耳打ちで話してる声が聞こえたのか、見事にハモって否定する。どんな地獄耳だよ。
「ねっ、仲良しでしょ?」
「あぁ、喧嘩する程仲が良いって言うからな」
二人の王の様子を微笑ましく見詰めるカズトとレイラ。
それにしても、この二人が昔冒険者パーティーを組んでいたとは驚きだ。冒険者時代何処までランクを上げたのかは実の娘であるレイラでも知らない。
「グフィーラ王の隣にいるのが娘かの。ずいぶんと大きくなったものだ」
「久方ぶりですわ、マーリン女王陛下。私の事を覚えてくれまして光栄です」
王様とうってかわってマーリン女王は、まるで聖母のように微笑みカーテシーで挨拶するレイラの頭を撫でる。その美しさにカズトも呆然と言葉が出ず立ち尽くしている。
「そして………そなたが"剣の勇者"かのぉ」
マーリン女王がカズトに向き直った。王様王妃様との馴れ合いで王族のコミュニケーションに慣れたと思っていたカズトだが、国が変われば緊張してしまう。
「は、はひっ!そ、そそそそそそうです」
「カズト緊張しすぎ」
「剣の勇者よ、そんなに緊張せずとも良い。ここは正式な場でないゆえ、無礼講と行こうぞ」
そんな事言われても何か失礼な物言いをすれば、不敬罪になりかねない。それに目の毒だ。目のやり場に困る。
「剣の勇者よ、そなたに会わせたい者達がいるのだ。ほれ、出て来るが良い」
マーリン女王が玉座の方向へ声を掛ける。そこに二人分の人影が現れ、こちらへと近寄って来る。
その人影を確認したカズトは、顔面蒼白になり疾きこと風の如くのように一目散に扉へ駆け出した。多分生涯で一番スピードが早いと自負していたが、その人影の一人に先回りされ捕まってしまう。
というか、想いっきり抱き締められ、人影の胸に顔を埋められ窒息寸前と死ぬ思いを感じたカズトである。
「もう何で逃げるのよ。私とカズちゃんとの仲じゃない」
「こういう風に抱き締められると予想着いたからだ。ルリ姉」
「良いじゃない。カズちゃん成分が不足して発狂しそうよ」
俺の成分って一体何だ?!それよりレイラ助けてくれと視線を向けるが、プイとレイラにソッポを向かれてしまう。
ルリ姉と呼ばれた女性はカズトを解放し、みんながいる方へとカズトの腕を組ながら歩いて行く。
恥ずかしいから離して欲しいのだが、離してくれない。それにわざとなのか胸が当たってレイラの視線が痛い。
「みんなに紹介する。彼女は皇瑠璃、俺の父さんの兄の娘さんだ。つまり、俺の従姉になる」
「ご紹介頂きました、皇瑠璃です。"杖の勇者"であります」
えっ?何か聞き捨てならない単語が出てきたような気がした。
「ルリ姉、もう一回言ってもっても良いかな?ルリ姉が何だって?」
「うん?"杖の勇者"って事?」
やっぱり聞き間違いじゃなかった!
「ルリ姉、今まで危険な事なかった?!ケガとかしてないよね!」
「心配してくれるのね。やっぱりカズちゃんは優しいなぁ。大丈夫よ、ケガしてないから。勇者なんだからステータス高いしね」
えっへんと胸を張る瑠璃。マーリン女王同様、下着に近い衣装を着用されており胸を張ると、その胸が膨らみマーリン女王以上に目の毒だ。
優しく瑠璃は微笑んでくれるが、やはりカズトは心配してしまう。昔から実の姉みたく接して来たのだ、心配するなと言われても無理なものは無理だ。
「あなたが、レイラちゃんね。話は聞いてるわ。カズちゃんの嫁さんなのよね。カズちゃんは大事な人のために無理をするから」
「はい、お任せください。瑠璃さん………いえ、姉様」
「あらあら、レイラちゃん可愛いわ。あっ、そうだわ!後でカズちゃんの幼い頃知りたくない」
何処から取り出したのか瑠璃の手元には一冊の本が握られている。いや、あれはカズトにも見に覚えがある。何処で見たかは覚えていないが。
「これなんかどう?可愛いでしょ?」
「ぶほっ!これは反則級に可愛い過ぎです」
レイラは瑠璃が手にしてる本を凝視し鼻血を垂らしてる。
思い出した!あれは俺の写真がファイルしてある写真集だ。何でこの世界にあるんだ!




