SS1-12、帝国の三勇者~魔刀VSリンカ~
【神獣化:雷獣】から戻るのに時間が掛かるようで、今現在ココアの膝にてリンカは小動物みたいな寝顔をしながら寝ている。
まるで子猫のようで、今のリンカだけを見たらあんなに強いとは想像出来ない。
「寝てるとリンカ可愛いんだけどな」
「でしょう!この寝顔が可愛いのよね」
虎耳というより猫耳と言われた方がしっくりくる獣耳がピクピクと動き、つい撫でたくなる。ココアの手が自然と伸び優しく撫でる。
毛並みはサラサラで、クセになる感覚で辞められない止まらない。それに撫でるたびにゴロゴロと本当の猫のようにノドを鳴らす。
本当にリンカが猫なら飼いたいと密かにココアは呟いた。だけども、楽しい時間は早いものでリンカの耳と尻尾は消え、髪の色は元通りになり、両手両足に生えていた毛皮はキレイに戻ってしまった。
「……………………忘れてくださいのです」
ココアの膝から颯爽と立ち上がり、そっぽを向いて小声で呟く。羞恥心からか頬が僅かに赤く染まってる。
「リンカ、可愛かったわよ」
「ぷんすか、忘れてくださいのです!」
「そりゃぁ、無理な話だろうよ。あんなに………………ぷすっ、可愛いかったんだから」
元通りに戻ったリンカは、顔面だけでなく体全体がヤカンが沸騰したかのように真っ赤かになっている。
真っ赤になりながら、体を震わせて笑ってるメグミと追い掛けっこが始まった。
「ぷっわっははははは、可愛い側面があって良いじゃないかよ」
「今度こそ泣かすのです。この待つのです」
「負けた事はあっても俺が泣いた事はないぜ」
二人とも風属性の技術を使用してるせいか、追い掛けっこしてる二人の周囲は、まるで竜巻が渦巻いてるかの如く突風が吹き荒れている。
そんな中で唯一二人の間に立ち入れる者がいた。先程までリンカに膝枕をしていたココアだ。同じ勇者なのだから太刀打ち出来ない道理はない。
「二人ともいい加減にしなさい………………ね?」
「あぁん?ココア!もしかして怒っていらっしゃる?」
「怒ってないわよ?そう思うのなら、メグミに私に怒られる心当たりがあるのかしら?うふふ」
いやいや、あれは絶対に怒ってるだろ?額に怒りマークが浮き出ており、口調がどんどん低く威圧感が増してきてる。
「だけど、捕まらなければ良いだけの話だ」
「私から逃げられると思ってるの?思ってるなら、浅はかな考えね」
ココアは【音速移動】を発動。あっという間に捕まえ、尻の下に敷いている。
光属性か空間を移動する魔法・技術でないと、【音速移動】の速度には勝てないだろう。
よって、メグミは簡単に捕まえられた。残りはリンカなのだが、メグミを追い掛けてる際の隙で雲隠れたようだ。
この三人の内、リンカは潜入・諜報活動を得意としており気配を消す等造作もない。
「これは………………完璧に隠れてるわね。無駄だと言うのに【音響地図】」
耳には聞こえない周波数の音を周囲に反響させ、探してる物のありか等を探知出来る。範囲は、帝国ブレインズよりも広いらしい。確認した事はないので、何処まで広げられるか正確にはココア自身も分からない。
「あっ、見・つ・け・た」
直ぐにリンカらしき人影を見つけた。今いる所からそんなに離れていない。動く気配はない。まだ発見した事には気付かれてないはずだ。
探しに動き出すのは、今しかない。気配に敏感なリンカに近付くには、気付いてない今だ。
場所は分かり、後はリンカが気付かない程の速度で動くだけだ。だけど、僅かな音でもリンカは気付く恐れがある。
そこは正に音のスペシャリストである"歌の勇者"ココアしか出来ない芸当を今からやる。
「うっふふふふふ、今から捕まえてあげるわね。行くわよ【音のない世界】」
今、この瞬間から世界から音という音が無くなった。正に静寂の世界、どんな爆発音でも無音と化す。声も届かず、聴覚自慢な種族でさえも何も聞こえやしない。
ただし、絶大的な技術や魔法には必ずと言っていいほどデメリットも大きくなる。
【音のない世界】の場合、範囲を広げる程に準備に掛ける時間と使用可能になる時間が結構掛かる。
つまり、燃費がとてつもなく悪い。
(さぁ、行くわよ)
気配を察知される前にやる。音が消えてもリンカなら周囲の気配だけで動けるのをココアは知っている。例え、目が見えなくなっても触覚を失っても気配だけで動くと確信してる。
(いたわね。流石に冷静ね。音という頼りにしてたものが失くなると、大抵混乱するものだけど)
リンカを見つけたのは良いが、単純に音速で捕まえに行っても逃げられる。ここは慎重に行くべきだと作戦を切り替えた。
一方リンカは、瞬時に周囲の異変を察知した。ありとあらゆる音が失くなってる事に気付いた。これを出来るのは、一人しかいない。
(やられた。ココアは本気。だけど、リンカは捕まらない)
音を探るのは辞め、気配や空気の流れで周囲の状況を把握しようとする。




