SS1-10、帝国の三勇者~盗賊の用心棒VSリンカその3
「こりゃぁ驚いた。お嬢ちゃん、獣人だったのかい?!」
それなら納得がいく。十代半ば位しかない年で、俺と互角かそれ以上の実力を持ってるとはおかしいと思っていた。
獣人なら、人間の数倍の身体能力を所持していると言われており、女・子供でも人間の冒険者よりも強い時がある。
「いいえ、リンカは人間よ。今は、技術でこういう姿になってるだけどね」
リンカの代わりに答えたのは悠然と離れた場所で傍観してるココアだ。歌の勇者だけに離れていても声が通り、オドロ丸まで聞こえている。
「気を付けた方がいいわよ。今のリンカは自我なんてものないから。まぁ仲間と敵の認識は出来てるらしいけどね」
自分のところまで被害はないの知ってて呑気に忠告している。敵が倒れるまで、あの姿のリンカを止めるのは至難の業だ。
「ガルルルルルルルゥゥゥゥ」
「まるで獣じゃないか!ガフゥ!」
リンカが謝った意味がやっと理解出来た。この技術の使用前が1だとすると、今の状態が10かそれ以上だ。
辛うじて受け切れてはいるが、全部は無理なんで軽そうな打撃だけ敢えて受け、重そうな打撃だけを受け流してる。
だけども、受け続けているだけではいすれ負けてしまうが、オドロ丸には秘策がある。
「ゴフッ!ハァハァ、これ位血を流せば充分か?」
オドロ丸の本領発揮はここからだ。血を流せば流す程に血鬼丸の技術が強力になっていく。
「グフッ、ここだ。【血液突起】」
地面と空中に散らばってる血渋きから円錐状の突起物が形成され、リンカに襲い掛かる。
突然の不意打ちに反応が遅れた。ドスドスと血液の突起がリンカに突き刺さる。
「ガルッ!グルラァァァァァァ」
バチバチ
突き刺さったと思いきや刺さる寸前で止まっていた。血液の突起を止めたのは、リンカの体中から溢れてる電気だ。この電気を鞭状に伸ばし血液の突起を掴んだのだ。
「リンカが言ってじゃない。雷獣ってね。そもそも神獣様が、そんなものが刺さる柔な体をしてる訳ないじゃない。今のリンカは、この中にいる誰よりも強いのだから」
技術により擬似的にリンカの体は神獣へと変貌遂げてるが、本来神獣は女神や神に仕える使い魔である。
女神や神の命令に従順な僕と言ったら口は悪いが、命令された事を必ず追考する実働部隊みたいなものだ。
そんな神獣と同等と化したリンカが、多少名を挙げた程度の人間なんかに負けるはずがない。
「クソがぁぁぁぁぁ。なら、これでどうだぁぁぁぁぁ」
【血液突起】の応用で地面から次から次へと血の槍が何本も突き出して来てはリンカを襲い掛かろうとしている。
だがしかし、リンカはその上を行く。血の槍が出る瞬間に避け続け、充分に実力を分からせた後でオドロ丸をボコボコにしようと近づく。
オドロ丸もリンカを切りつけようと近寄って来たところを血鬼丸を勢い良く振り下ろす。が、楽々と指先だけで止められた。
「ハァハァ、ここまで実力に差があるとは!」
「ガルガルルルゥゥゥゥゥ(【雷爪十字斬】)」
雷を纏った爪で切り裂かれたオドロ丸は、この世に未練などないような清々しい表情をして、その場に倒れた。
「ガフっ、ここまで殺られると………………いっそ清々しい。礼を言うぞ、お嬢ちゃん………………実に楽しい闘いであった」
「ガルガウガルルルルルゥゥゥゥ(こちらこそ礼を言うのです。久し振りに楽しかったのです)」
リンカにお礼を言ったオドロ丸は、ゆっくりと瞳を閉じ掌から血鬼丸が転げ落ちた。髪が一気に老けた様子で黒髪が白く代わり心臓の音が止まった。
とうとうオドロ丸が動かなくなり亡くなった瞬間だ。勝利を修めたリンカは喜ぶ様子でなく、むしろ哀しんでいる様子で空を仰いでいる。
「終わったのか?」
「えぇ、オドロ丸の闘いは………………」
「どういう事だ?あのオドロ丸ってヤツは……………倒れたんだろ?」
「オドロ丸が使ってた武器………………あれは魔刀です。あれ程の使い手なら………………おそらく、まだ闘いは終わってません」
ココアが恐れてる懸念がオドロ丸が使用してた武器だ。魔刀を含め魔武器は、共通でとある技術が付与されてる。
その技術が【魔人化】である。絶対に発動する訳でなく、使用者と魔武器の相性が良過ぎると使用者が死んだ時に発動する。
魔武器に自我が芽生え、自由に行動出来るようになると言われている。だけども、ほとんどが不発に終わるので、普段なら警戒はしない。
しかし、オドロ丸程の使い手なら、まず間違いなく死んだ後に【魔人化】が発動する。
発動したら100%狂暴な自我が芽生え、殺戮の限りを尽くすと言われており、見つけ次第討伐対象の一つと数えられている。




