SS1-9、帝国の三勇者~盗賊の用心棒VSリンカその2
「俺は、元々はAランク冒険者だったんだ。それがカズトのせいで犯罪組織に墜ちる事になった。剣の勇者カズトの妹なら許せん。容赦はせんぞ」
血鬼丸の剣先や浮遊してる血の武器からも殺気が駄々漏れで、どれだけ憎しみを抱いてるのか良く分かる。
だけども、その駄々漏れな殺気のおかげでリンカには有利となった。殺気により何処から攻撃して来るのか丸和かりで防ぐまでもなく紙一重で楽々回避出来る。
その代わりに血鬼丸と浮遊してる血の武器がどす黒く染まり、おそらく一発でも命中したらヤバい。
でも、当たりはしない。針に糸を通すかの如くスイスイとオドロ丸まで進んで行く。
「もうちょっと楽しめると思ったのに残念です?」
「しまっ━━━」
「これで終わりなのです、炎の聖拳イフリート【爆裂拳】」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
炎が纏った拳による怒涛の連続の突き。爆風で砂煙が舞い、浮遊してた血の武器は全て消し飛んだ。
「ちっ!殺ったと思ったのに、結構硬いです」
「ハァハァ、ゲホゲホ。最硬度の【血盾】を展開して防いだ。まさか壊されるとは思わなかった」
腹と右腕を押さえオドロ丸は、地面に踞ってる。【血盾】でも防ぎきれず、何発か貰ってしまった。
その結果的に右腕と肋骨を何本か折れている。だがしかし、皮膚の上に【血の鎧】を纏っていたおかげで最小限のダメージで済んでいる。
「全く手強いお嬢ちゃんだ。こりゃぁ、右腕と肋骨を何本か逝ったな」
「負けを認めるのですか?」
「いや、ここまで来たらどちらかが死ぬまで闘うぜ」
「死にますよ?」
「だろうな。俺がカズトの妹という理由で逆上した結果が、この様だ。だけどな、俺の尻は俺で拭くしかない」
オドロ丸は、フラフラと立ち上がると右手から左手に血鬼丸を持ち直し、なんと自らの右腕を肩から切り落としたのである。
当然の事ながら噴水のように血渋きと右腕が宙を舞い、当たり一面に血の水溜まりが出来てしまっている。鉄の匂いが鼻につき、グロい事に慣れてないと吐く事間違いなし。
「うっぷ、ハァハァ……………流石に効くな」
「普通ならショック死してるのです」
「これで吐かないとか、慣れすぎだろ。お前達は」
「オジサンが言うのですか?」
「お互い様というヤツか。ほれ、ソイツなんか吐いておるわい」
オドロ丸を雇った主である盗賊の頭が思いっきりリバースしている。散々旅人を襲って来たのにだらしない。
「さぁ闘いの続きとしゃれこもうぜ」
「片腕で闘うつもり?負ける積もりなのです?」
重症の相手を殴り殺す程につまらないものはない。それをやるのは知能がない魔物か殺しが生活の糧にしてるヤツだけだ。
リンカは強敵の闘いが好きなだけで、別に殺しが好きな訳ではない。
「心配なさんな。こうすれば良いだけのこと。【血液操作】」
血溜まりがスライムのように動きだし、オドロ丸の右腕があったところへと集まって行く。
「ハァハァ、これで仕切り直しだ」
切り落としたはずの右腕の代わりとして自らの血液で腕を複製した。その腕は赤黒く禍々しい色をしている。まるで地獄から這い出て来たような………………そんな雰囲気を醸し出してる。
「噂以上の狂人です。これは殺すまで止まらなそうなのです」
「今さら何を言ってる?これは殺し合い、どちらかが死ぬまで止まらぬ。お前が死ねば、次は後ろのヤツだ」
「そう。なら、リンカも本気を出すのです」
今までのリンカを例えるなら、まるで噴火の如く荒々しい闘志だった。
だけど、今のリンカは………………底が見えない深海如く静かなる闘志で、リンカの周囲だけ数度温度が下がってる感覚を覚える。
「干支シリーズ:寅の聖拳ライガー」
両手両足の指先に金属で出来た爪らしき突起物が出現した。それ以外だと色が白と黒の寅縞模様へと変化してる位だ。
もっと金属らしさを失くせば、可愛いかもしれない。
「ごめん。これを発動したら、オジサンの命はないかもしれないのです」
「今だに俺の心配をするのか!ぷっくすすすす、お嬢ちゃんは変わっておるの。構わん、本気のお前を倒す」
「そう、分かったのです。寅の聖拳ライガー裏スキル【神獣化:雷獣】発動」
聖拳だけでなく、リンカの体にも変化が起こった。
頭には寅耳、臀部には寅縞模様の尻尾が生え、猫科動物特有の細長い瞳に変わり、肘から手首と膝から足首に寅縞模様の毛が生えた。
際付けは、頬に猫ぽいヒゲが数本生えてる。
これだけ見れば、単純に虎人族に見えるがリンカは、産まれてこのかた人間だ。




