85食目、魔法大国マーリン行き四日目~ポテチとコーラの契約は不発~
「━━━終了となります」
どうやら王妃様との契約の儀の最中に戻ってきたようだ。〝フライドポテト〟をシロに提供した後は5品程調理させられ、それらの料理に満足したのか、どうにか帰ってこれた訳だ。
シロのいる空間━━━俺が勝手に神の領域と呼んでるが、あの空間から勇者である俺の力でも脱出は不可能なのだ。
シロの機嫌次第で一生帰れないかと思うと毎回ヒヤヒヤする思いだ。ただ、ここの時間は経過してないのは救いかもしれない。
「後々追加するやもしれぬので、その度に契約の儀をお願いいたしますわ」
スゴい満面な笑みで微笑んで俺の手をガシッと強く掴んで来る。
えっ!えぇぇぇぇぇぇぇ!それってつまり、王妃様が気に入った料理(デザートや菓子も含む)が契約の儀のスクロールに刻まれたら他のお客様には出せないって事だよな。
「王妃様、それはお約束出来ません。既に店のメニューにあるもの、世界各国に広まってるもの等々を契約の儀で刻まれたら、他のお客様に出せず不満が来てしまいます」
今まで出してたメニューを急に取り止めになったら、そのメニューを目当てに来てる客は来なくなり、レストラン〝カズト〟の収入がガクッと下がってしまう。
一見さんは兎も角、常連客が来なくなるのは流石に痛い。常連客を大切にしない店は直ぐに潰れるものだ。
新しい客を抱え込む事は時間掛かるし、失敗したら目も当てられない。
「そうか、残念じゃが諦めるしか━━━」
「ただし、新作メニュー開発の際に王妃様が気に入るであろう商品が出来た際には、いち速くご報告する事をお約束致します」
カズトの提案にズーンと沈んだ表情が嘘のように晴々とニコヤカに元気を取り戻す王妃様。
新作と言っても地球にある既存の料理をカズト流にアレンジしたに過ぎない。そうそう、新しい発想の料理なんて出来ないものだ。
ただ、こちらでは地球の料理は物珍しいものばかりで助かっている。それをカズトが考えた料理だと信じる者も多い。
「そうかそうか、私に合う新作料理とやら楽しみに待ってるいるわよ」
「はっはぁ~、お任せくださいませ。きっと王妃様のお眼鏡に敵う事でしょう」
これで王妃様の機嫌を損なわずに済み、それに加え次回の契約の儀をやる時間を先延ばしに出来たかもしれない。王妃様もそうそう自分が認めるような新作料理をカズトでも簡単に出来るとは思ってないだろう。
「あれも入れようかしら。〝ポテトチップス〟と〝コーラ〟を」
王妃様の契約の儀に書き込まれば、数百円のお菓子とジュースが数万円と化けるだろう。だが、カズトはそうしたくなかった。
「残念ながら〝ポテトチップス〟と〝コーラ〟は、もう市民や冒険者の間に広まっております」
今はウソだが、いずれ広めて行くつもりだ。ウソも本当にしちゃえば、ウソじゃなくなる。
それに〝コーラ〟は兎も角、〝ポテトチップス〟は何気に作るのは簡単だ。イモは簡単に手に入るし、何時か真似される懸念もあり、王妃様には悪いがお断りだ。
誰かが作って売れば、それが俺が提供したと見なされ契約違反とされるやもしれないからだ。
貰い事故は誰だって嫌だろ? 俺だって嫌だ。
でも、市民や冒険者に拡散しにくい料理━━━貴族が喜ぶ且つ見た目が豪華な料理且つ真似出来ない料理なら儀式の儀に記載されても問題ない。
俺しか作れない料理ならば、貰い事故の心配はない。
「そう、それなら諦めるしかないわね。なら私のための新作料理、楽しみにしておりますわよ」
「はっはぁ~、お任せあれ」
☆★☆★☆
「ムッフフフフ、何も知らないで順調にすすんでやがる」
「どうでも良いですが、早く帰りたいです。ふわぁ~」
カズト達含むグフィーラ王の王族馬車が進む街道から2km程離れた丘の上に二人の男女がいた。
気持ち悪い笑い方をする男は、女性みたくロングの白髪で鋭い瞳をしており、フロックコートを着用しており見た目だけ紳士に見えなくもない。
それに武器を構え、この世界では異質な武器━━━狙撃銃の付属品である光学照準器で覗き王族馬車を監視している。
一方、眠たそうにしてる少女は、銀髪短髪で子猫みたく瞳を今か今かと閉じそうになっている。
が、少しでも武術を齧った事のある者なら冷や汗を掻きながら立ち去る。其ほどに眠たそうな少女には一切の隙がない。
服装に関しては、動きやすさを重視で、まるで日本の陸上選手が着るような露出があるユニフォームぽい服を着ている。一見、防御が低そうに見えるが【付与魔法】が施されており、肌が見えてる箇所でさえ普通の剣なんかは刺さらない。
むしろ、剣の方が折れてしまう。
「ムッフフフフ、眠るのは良いですが、ちゃんと見張りはしてくださいよ《戦車》」
「ふわぁ~、大丈夫です。そこに転がってるの、見えないのですか?《星》」
《戦車》と呼ばれた少女の真後ろには、無防備な二人を襲うとした魔物の大量な死体が山のように積まれていた。




