81食目、魔法大国マーリン行き四日目~フォンダンショコラの契約~
俺は筋肉ムキムキな青龍隊を見たくないので、青龍隊が魔物を討伐終わるまで王族馬車で王様達と駄弁っていた。でも、それは建前で本当は王様達に青龍隊の淫らな姿を見せたくないのが本音だ。
「王様王妃様、魔物の討伐が終わるまで、こちらをお試し下さいませ」
王様と王妃様の目の前に出したのは、皿に乗った円柱の黒っぽい物体だ。何も知らなければ、おそらく色合いから毒と勘違いしてもおかしくない。
しかし、その黒っぽい物体からは甘い匂いが漂ってくる。その匂いに耐えられなくなったのか、王様と王妃様は毒味をさせずフォークで真っ二つに割った。
「うぉ!中から何か出て来たぞ」
「香りが一層増しましたわ。これはきっと美味よ」
中から出てきたのは、外側と同じ黒っぽい色合いで一層甘い香りが際立ち周囲のメイド達も唾をゴクンと飲み喉を鳴らす。
うん、女性達は年齢・立場関係無く甘い物好きだと歴史が証明している。それに良く甘い物は別腹と言うしね。
「これは一体何じゃ?早よう、説明せよ」
おっ?やっと聞いてくれたか。このまま食べてしまったら俺の出番が少なるところであった。
「これは〝フォンダンショコラ〟でこざいます。カカオという木の実を原材料にて作られた菓子でございます。俺━━━わたくしの国では、昔貴族の間でブームになったと伝え聞いております」
「ほぉ、勇者の国であるか。叶うであれば、何時か行ってみたいものよのぉ」
王様に限らず、この世界の住人が俺の世界━━━地球に来たら腰を抜かすだろうな。
例えば、天を貫くような建物━━━━高層ビル、馬が引かなくても走る鉄の箱━━━自動車、羽ばた無くても空を飛ぶ鉄の鳥━━━飛行機、火を使わない照明━━━電灯、人や動物が入ってる箱━━━テレビ等々原始人並みに驚くものばかりだ。
まぁそんな事は取り敢えず横に置いといて…………。
「さぁ、冷めない内にどうぞ」
フォークを手に持ち王様王妃様は〝フォンダンショコラ〟を口にパクっと頬張る。
「「んっまぁぁぁぁぁい」」
口の中でホロリと砕け、中のチョコが口内に広がり、この世とは思えない程の甘さにより王様王妃様の二人は満面な笑顔となっている。
「何じゃ、この甘さは!こんな楽園如き甘いものが存在しているとは。これは本当にお主が作ったのか!」
俺でも原材料であるカカオからは流石に作らない。作る知識は持ってはいても一から作った事はないし、この世界ではカカオからのチョコを作る装置はなく、一人では何日何週間単位と時間掛かるか想像出来やしない。
だから、俺のスキル【異世界通販】で地球にいた頃、俺が認めたチョコを取り寄せて作ったのだ。
おそらく、この世界では俺しか作れる者はいないだろう。技術はもちろんの事だが、材料が俺しか手に入れる事が出来ないのだから。
それも理由の一つだが、もう一つ理由がある。それは言葉が理解されない事にある。元々この世界に存在してなくても、カズトが【異世界通販】で取り寄せ出来る物は何とか地球の言葉からこの世界の言葉へ翻訳され、理解出来るようだ。
ただし、地球での物を作る作業工程や技術等の名前を言っても、こちらの住人の頭の中が???がいっぱいになり、いくら言っても通じない。これでは、いくら教えても無駄である。
だが、例外はあるものでミミに関してはカズトの記憶を覗き見する事で本来翻訳出来ない上記の地球の言葉でも理解出来てるらしい。
「城のシェフに頼んで作れないかしら」
「特殊な技法で作るので、おそらく無理でしょう」
無理だと言った瞬間、王妃様の顔がこの世に絶望でもしたかのように落ち込み方が半端なかった。それほど城で食べたかのか!
でも、この世界には甘味が少ないから、また食べたいと欲求が湧いてもしょうがないと俺は思う。
「従者の方に買いに来させれば如何でしょうか?温度を保つ魔道具の箱に入れれば、大丈夫かと」
カズトの提案にキラキラと太陽のような笑顔に瞬時に変わる。そして、王妃様は一枚の紙をメイドの一人に取らせ、こう書き記した。
・契約書
・汝はグフィーラ王妃が寄越した従者が買いに着た場合又はグフィーラ王妃本人がご来店した場合に〝フォンダンショコラ〟を出す事。
グフィーラ王妃側はお金を言い値で払う事。
カズト側は王城に運ぶ事になった際には保温状態を保つ魔道具の箱を使用の事。
フォンダンショコラをグフィーラ王妃以外には提供しない事。
・契約物:フォンダンショコラ
・契約者:カズト・スメラギ━グフィーラ王妃
此により契約完了とする。
「こ、これは契約の儀!」
「さぁ、勇者殿も血判を押すのよ」
契約の儀とは、魔道具の一種である。一見普通の羊皮紙なのだが、そこに契約内容を記し最後に契約者同士の血判を押す事で契約したとみなされ発動する。
契約は遵守され、破った者にはその契約内容によって違うが大抵違約金を払う事になる。命のやり取りをしない限り、大して危険な魔道具ではない。




